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カテゴリ:アメリカ ・ サスペンス
親友のハリーを訪ねて来たホリーは、ハリーは交通事故で死んだばかりと聞く。チターの軽快な音楽で始まるこの映画は、第二次大戦後の米英仏ソ4カ国共同分割統治下のウィーンを背景に、男同士の友情、男と女の愛憎が描かれたサスペンス映画の名作である。 1949年製作のイギリス映画。監督は巨匠キャロル・リード、出演はジョセフ・コットン、アリダ・ヴァリ、オーソン・ウエルズ。音楽はアントン・カラス、撮影は見事な光りと影の映像美でアカデミー撮影賞に輝いたロバート・クラスカー。原作はグレアム・グリーンがこの映画のために書き下ろしたものだ。 <ストーリー> 映画はアメリカ人の西部劇作家ホリー・マーチンス(ジョセフ・コットン)が、親友ハリー・ライム(オーソン・ウエルズ)の招きを受けて、列車で駅に降りるところから始まる。荒廃したウィーンの町は至る所が廃墟と化し、物資の横流しや闇取引が公然となされていた。 ホリーはハリーを訪ねるが、ハリーは交通事故で亡くなったばかりと聞かされる。葬式が行なわれている墓地へ駆けつけた彼はそこで舞台女優アンナ(アリダ・ヴァリ)を見かける。国際警察のキャロウエイ少佐(トレヴァー・ハワード)とも会い、ハリーが悪質な闇商人だったと聞き腹を立てる。 「死人のことを悪く言うな。どうせガソリンの横流しぐらいだろう。考え方がいかにも警官らしい」 「モノが違う」 「タイヤかサッカリンでも大差はない、殺人犯の逮捕が先だろ」 「奴は殺人犯も同然だ」 ホリーはキャロウエイに殴りかかるが、キャロウエイの部下にパンチを浴びる。 真相の究明に乗り出した彼は関係者に次々に面会、話を聞いて歩く。 ホリーはクルツ男爵という男に会う。ハリーの親友だったという男だ。 「彼の潔白を証明したい。協力を」と、ホリー。 「したいのですが、オーストリア人は警察に用心せねば、残念ながらできるのは助言くらいです」 二人は事故現場へ行きクルツは事故状況を説明する。道路の反対側から友人に呼ばれ、道路を渡りかけたとき、トラックが来たのだった。 ハリーは友人のポペスコとクルツに道路の反対側に運ばれ、たまたま通りかかった主治医のヴィンケルが看取ったそうだ。運転手に過失は無かったと云う。そころが運転手もハリーのお抱え運転手だった。 ”何かありそうだ”ホリーに閃くものがあった。 道路を掃いている門番の男。何か云いたそうな様子だ。 アンナとも会った彼は、彼女がハリーの愛人だったと知り、一緒に証言を捜し求める。事故の時二階から現場を見たと言う門番の男は事故の後、ハリーを向こうの道路まで運んだのは3人だったという。現場に「第三の男」が確かに居たと言い張る。 ホリーが追求すると門番は怒り出し、こんな奴をもう連れてくるなとアンナに云う。その言い争いを門番の小さい子供が目撃していた。 アンナの部屋に警察の捜索が入った。旅券を差し出して見せるアンナ。チェコ国籍を隠すためハリーが手を回して作った偽造旅券だ。旅券とラブレターを押収され警察に同行を命じられる。ホリーはアンナに云う。「ハリーの疑いを晴らす、君の疑いもだ」 事故現場をうろつくホリーに門番が話があるから夜来いという。その夜、出かけたホリーとアンナの二人は門番の所へ行くが、門番は何者かの手で殺されていた。家の前は黒山の人だかりだ。ホリーを見つけた門番の子供が「人殺し」と言ってホリーにすがりつく。アンナは慌ててホリーを人込みから連れ出し逃げる。人々が追いかける。先頭に立って追いかけて行く子供の姿が何とも不気味だ。モノクロ画面だけに余計に影の扱いが気味悪さを増す。 警察に出向いたホリーは大佐からハリーの犯罪を証明するスライドを見せられる。ハリーは病院の看護人ハービンからペニシリンを横流しして貰い、それを水で薄めて大量に密売していたのだ。しかもその組織の元締めだったのである。その薬を打った子供や妊婦たちが死亡したり、脳病院へ入ったりと言う悲惨な目に会っていることも。 「ひどい、ひどすぎる」 ホリーもハリーのあくどい犯罪を認めざるをえない。組織の一味にはクルツ男爵らの名前が挙がっている。 ホリーは帰国を考え、アンナに会いに行く。酒場の花売りから花を買い、部屋へ行く。花束でアンナの飼い猫をじゃらすが猫はあくびをして外へ出て行く。 「憎らしい猫だ」 「ハリーにはなついていたわ」 「もうハリーの死なんかどうでもいい。誰に殺されようと犯人にも言い分はあるさ。私が殺してたかも・・・」 「人は簡単に変わらないわ」 「頭痛がしてきた。君が喋り通しだから」 思わず笑うアンナ。 「初めて笑ったね、もう一度」 「2度は無理よ・・・」 椅子にかけたアンナの顔から流れ出る大粒の涙。 ハリーを偲ぶ涙であろうか。 暗い表通りに出てくるホリー。猫の鳴き声がする。入り口の暗い扉の陰に猫がうずくまっている。アンナの猫だ。 誰かいるようだ。 「何のスパイのつもりだ、何故つける?返事をしろ!」 答えはない。 「出て来い!明るいところで顔を見せろ!誰の命令だ!」 二階から女の声がして灯がつき、窓が開く。 灯に浮き出た顔はーー、ハリー・ライムだ。 ハリー、ニヤリと笑う。 「ハリー!」 ホリー、灯の消えた扉のほうに走り寄る。いない。 足音が響く。 追うホリー、角を曲がると、忽然とハリーの姿は消えている。 広告塔が建っているだけだ。 キャロウエイと一緒にハリーを見失った場所に来ているホリー。 「足音を追いかけると、ここで突然消えた」 「わかったよ、手品のように消えた・・・」 キャロウエイ、広告塔に目をつける。 扉を開けて中へ入っていく。 そこは広大な地下水路が音を立てて流れていた。 改めて警察の手でハリーの墓を掘り返して調べると、埋められていたのはハリーの手下でJ・ハーヴィン、行方不明になっている病院の看護人だった。 アンナが旅券偽造で国際警察に逮捕される。ホリーは警察でハリーが生きていることをそれとなくアンナに知らせる。 ハリーはクルツら仲間とソ連地区に潜んでいた。 ホリーはソ連地区に出かけ、ハリーをプラター公園の大観覧車まで呼び出す。 「やあ、元気だったか」と、ハリーが現われた。二人は大観覧車に乗り込み話をする。 ハリーは大観覧車の中から眼下に見える人々を指してこううそぶく。 「もし、あの点々の一つが永久に動かなくなっても、それを哀れだと思うか。もし一つ動かなくなるごとに2万ポンドやると云われたら、お前、その金を受け取るんじゃないのか。税金免除でな」 ホリーは正義感とアンナへの恋心から、少佐の指示でハリーをおびき出す囮になる。交換条件はアンナをソ連の手から救い、逃がしてやることだ。だが、駅で列車に乗ろうとしたアンナはこっそり見送りに来たホリーを見かけて言う。 「あなたが裏切っても私には出来ない 愛は消えても彼は私の一部、裏切れないわ。私はあの人を愛したのよ」 アンナは決然とホリーに向かって云うのだ。 「裏切り者の情は受けないわ」 そして返して貰った旅券を破り捨て、離れて行く。 ホリーはハリー逮捕のための囮役になった。約束の喫茶店でハリーを待つ。 警察が大勢張り込んでいる。夜の闇に身を潜めて。 緊張して待つホリー。 アンナが姿を見せる。 「どうしてここを?」と聞くホリー。 「男爵たちは捕まった。でも、ハリーは来るはずないわ」 そのとき、裏口にハリーの姿。 「ハリー、逃げて!警察よ」 ハリー、身を翻す。 一斉に警官たちが後を追う。 鳴り響く警笛。 地下水路に逃げ込むハリー。 後を追って地下水路に入り込む警官たち。 逃げるハリー。 キャロウエイに続いて部下とホリーも地下水路へ。 逃げるハリー、逃げる、逃げる。 追う警官たち。 水路はまるで網の目のようだ。 ハリー、出口のマンホールへ。 だが、警官が待っている。 ハリー、別の出口へ。 そこも塞がれている。 再び水路へ出るハリー。 「ハリー!」 ホリーが呼び止める。 拳銃を構えるキャロウエイの部下。 ハリー、銃を撃つ。 斃れる部下。 ホリー、部下の手から拳銃を取り、ハリーを追う。 ハリー、無人のマンホールへ。 指を出し、持ち上げようとするが力が出ない。 ホリーが見つけて対峙。 銃声。 ハリーの2度目の葬式が行なわれている。参列しているキャロウエイ、ホリー、離れてアンナの姿も見える。 アンナ、墓地を出て並木道を歩き出す。 木の葉が舞い散る並木道をカメラに向かって歩いてくるアンナ。それを待っているホリー、無言の中に物悲しいチターの音が響く。アンナはわき目もふらずホリーの前を通り過ぎてゆく。愛する男を殺した憎い男を彼女は許せなかったのだろうか。 従来の定石であれば、去っていく女の後姿をカメラは見送るのが普通だ。女がカメラ前を切れていく、そして何も見えなくなった並木道に男ひとり佇む。余韻を持たせた見事なラスト・シーンであった。 <トピック> アントン・カラス ちなみにチター一本でこの映画の全てを表現したアントン・カラスは、この映画を何と500回も観たそうである。録音前に見る数字としては想像を絶している。カラスは半年間、監督の家に軟禁状態にされて作曲に励んだらしい。 アンナの衣装 ハリーを愛するアンナ(アリダ・ヴァリ)。衣装担当をしたココ・シャネルは映画史上初めて、女優に男物のトレンチコートを着せることで、アンナの意志の強さや気丈さを表現したという。 ジョセフ・コットンに興味のある方は ↓ http://plaza.rakuten.co.jp/chokosan/diary/200908040000/ <一言> 友情を取るか、正義を取るか、正義感の強いホリーにはハリーが許せなかったのであろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.01.19 17:37:23
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