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テーマ:今日見た舞台(965)
カテゴリ:映画・演劇
バーンスタインが作曲し、興行的には余り成功しなかったものの、
かといって、忘れ去られるでもなく、 序曲はかなりしばしば、また、そのなかのいくつかのナンバーは、よく披露される、という、ミュージカル「キャンディード」。 大成功を納めたウエストサイドストーリーとはまた別の愛着を バーンスタイン自身もっていて、 晩年に、改作して上演したりしている、、 ということは知っていたのですが、 なかなか、見る機会がなく、今日に至っていました。 黒崎めぐみアナウンサーの安心感のあるあったかいおちつく紹介で(今週は堀内修氏じゃなかったんですね)、 昨夜の番組は、オーケストラのコンサート形式とのことで始まった序曲。 期待をはるかに上回る、オーケストラの響き(ちょっとコケかえたりはするけど)、ひそかに危惧していた、薄い響きでもなければ、メトロノーム的でもありません。 と、テロップをみると、ニューヨークフィル!! 会場もエイヴァリー・フィッシャーホールのようです。 指揮者は珍しく女性のアルソップ(NHK表記で。Alsopだから一般にはオールソップでしょうか)という人。とても引き締まった、活き活きとしたメリハリのついた音楽です。 語り役でもあり、歌も歌う、狂言回しの役まわりの「パングレス博士」役でもあるのが、 トーマス・アレン。 もう超ベテランの有名なバリトン歌手ですが、芸達者で語りも芝居も上手なのは、 以前見たプロムスのラストナイトでみたとおりですが、 今回も、のびのびと「英語圏のオペラ」を「英語圏での上演」で演じていました。 会場も常に大うけです。 英語がもっとわかったら、、というのもあるし、ある程度時事ネタとか向こうのテレビネタも入ってるようです。 作品そのものは、バーンスタインらしいもの。 いろんな音楽素材を自在に組み合わせて、 美しい、または親しみやすい旋律やリズムを産み出し、 コープランド風味の技巧を駆使してまとめあげた、、というようなものですが、 ドラマの場面に合った、親しみやすいナンバーが続きます。 といっても、歌うのはかなり困難でテクニックが必要なものが多そうです。 劇としての構成は、一言でいえば、荒唐無稽。 ヴォルテールの原作がそうなのだそうだから、 もともとは、オペラ(ミュージカル)に向いてるハナシでもないのかもしれません。 原型というかモチーフとしては、 ヨーロッパの童話やジークフリート、パルジファルのような 「無垢な男(聖なる愚者)」の冒険譚の形にはなっています。 新しいところでは、トム・ハンクスが主演した「フォレスト・ガンプ」は かなりこの作品に近いものです。 ただ、主人公をとりまく環境や人たちは、基本的には、「善」ではないもの。 そして、主人公は、非常な難儀や危機を次々と経験します。 ただし、最後の瞬間までは、 主人公は常に変化せず、同じ心、同じ姿勢を貫きます。 フォレスト・ガンプでは、主人公の周りで、各時代のアメリカを代表する大事件を 絡ませて描いていましたが、 さすがに、キャンディードでは、原作そのものが、ヴォルテールですから、 そのようなことはありません。 舞台があちこちに飛ぶのも、似ていますが、 キャンディードの飛び方は尋常ではなく、地球規模で飛びまくります。 が、原作がどうなのか、また、ミュージカルの舞台にしたときどうなのか、 バージョンによる相違はわかりませんが、 今日みたものは、「語り」で、そうしたものすごい時空の超越とか、 何万人もが死んだ、、とか、船が沈没したけど、助けられたとか、 そういったことは済ませてしまい、それそのものが味になっています。 戯曲そのものが「楽天主義」を揶揄する(この背景はもうちょっと考えないと今は理解しかねていますが)ものなので、 奇跡的に助かった理由も、また、梅毒になる理由も、皆殺しになる理由も、 すべて、「 in the best of all possible worlds」なものとして、 さらりと語りで済ませます。 このあたりがまた、トーマス・アレンのおとぼけで、まさに英語チックな(という言葉が全然英語じゃないんですが)表情と演技で、小気味良く、コミカルに語られ、会場を「劇場」にします。 音楽は、ソロそのものもですが、重唱で、異なる歌詞を組み合わせて、止揚させる技は、 モーツァルトがオペラで得意としたところで、 バーンスタインもかなり多用して力を入れています。 超有名なところでは、ウエストサイドストーリーの決闘前に各自が歌って重なっていく「トゥナイト」にバーンスタインの技が示されていますが、 それに近い、ただし、あそこまで、まったく異なる旋律を組み合わせるまでは行かない、そのかわり、とても親しみやすい重唱があちこちで聴けて、それが、作品全体にある、各登場人物が、それぞれ「一緒に」時を過ごしていながら、それぞれ、気持ちは違うものに向いている、、というような場面を、「音楽的に」表現しています。 こうした、「関係しながらも、くいちがっていて、それを当人同士は余り意識していない」というような面白さをさんざん見せておいて、最後に、「大統一」=大団円となる、、、という、戯曲と音楽の融合は、なかなかのものです。 演出の方法にもよるのかもしれませんが、 とても楽しく、コミカルに、パロディを込めた味わいで、全体が演じられましたので(ちょっと、子供のためのシェイクスピア の演出手法を思い出しました。)、フィナーレも、涙を流して感動する!!!というような感じではなかったのですが、題材からしても、、、また、意図的な「l荒唐無稽さ」から言っても、これを「シリアス一辺倒」とか新バイロイト様式のよゆな「象徴劇・心理劇」のようにやるより、今回のようなのがスタンダードなのではないか、と思いました。 とはいえ、「演劇的」ではない作品(ある意味、演劇のあるジャンルにはちゃんと属するとは思いますが)だとは思います。 語りに多くを依存する点、場が余りにも多く変化しすぎる点、短い登場シーンしかない多くの登場人物それぞれに各々説明が必要な点、など、、、、 だから、ウエストサイドほどの成功は難しかったのでしょう。 しかし、音楽が余りにも魅力的なナンバーが多かったので、「形を変えて」上演されてきたのかもしれません。 (良く知らないのですが、ブロードウェイではミュージカルとしてそこそこ上演はされてきているが、原型とかけはなれてしまっていたので、バーンスタインが晩年、演奏会形式に書き換えて上演した、、とのこと。その原因は上に書いたようなことだったのかもしれません。 このあたりは、実際に、オリジナルと、また、ブロードウェイ汎用版とを見ないと、なんともいえませんが。) このミュージカル(オケと歌唱としては、オペラ・オペレッタといってもよさそうですが)、何度も見るに足る、魅力的な作品でした。 歌手も、なんら問題が無い、どころか、 ミュージカル系の2人もものすごくすばらしいですし、 かつ、適材適所でしたし、 クラシック系の歌手も良かったです。 初めて見た作品ですから、「演奏として」、何か批評がましいことはいえませんが、 すくなくとも、最高の歌を聴かせてくれた、すばらしいものでした。 オケも含めて、バーンスタインを最高の環境で聴かせてもらうことができた気がします。 http://www.pbs.org/wnet/gperf/shows/candide/index.html お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.03.23 22:36:14
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