コシヒカリコーチＮのスーダラＯＬ日記

私はここぞという時のＢＧＭを、ふたつほど心に決めている。

ひとつは、口説かれる時のＢＧＭ。
これは、マーラーの交響曲第五番の４楽章　
”Adagiettoアダージェット”しかないでしょう。

この曲は　映画「ヴェニスに死す」のサントラにもなったし、
ドラマなどにもよく挿入されるので　
聴けば「ああこれか」とお分かりになる方が多いと思う。
とにかく、美しい、メロメロにロマンチックな旋律を持つ曲である。

白状すると、過去に何回か
「アタシ、この曲をバックに口説かれちゃったらイチコロなんだけど」とか
わざわざ説明して差し上げたりしたこともあるが、
果敢に挑戦してみようか　という殿方は
今だかつて現れたためしがないのが真に残念である。


もうひとつは、自分のお葬式の時のＢＧＭ。
これもマーラーで、交響曲第１０番。未完の遺作である。

完成した楽譜があるのは一楽章だけで、あとは大雑把な骨組みしか残っていないので、
売っているＣＤも　大抵は一楽章のみ収録のものが多い。
後世の物好きな人が、
骨組みに　本人の作曲趣向をシュミレーションして肉付けしたのが
一定の評価を得て今日に至っているが　かなりマイナー趣味である。
私はこの全曲版を　先輩が所属するアマチュアオケの演奏会で初めて耳にした。
余りにも受けた衝撃が大きくて全身が震えたのを覚えている。

初めて聴くと、「ぐちゃぐちゃ」という印象を持つかもしれない。
オエーと吐いて、あらためて自分の嘔吐物をまじまじと見る感じである。
（お食事中の方、すみません）
とにかく、人間臭い。
人生の全部が入っている。
（生と死、青春と老い、愛情と憎悪、蒸し暑さと静寂、現世とあの世、醜悪と崇高　等等）
この曲の、第５楽章で昇天するのが私の夢である。

マーラーは変人である。
演奏会のプログラムか何かに、
「マーラーの音楽は、明るい調子の曲でもどこかに安心できない翳りを含み、
陰鬱な曲の中にも　何かせせら笑っているような軽薄さがある」とあったのを読んだ。
言い得て妙だと思う。


葬式のＢＧＭの他の使い途としては、
ものすごーく落ち込んだ時に　電気を点けずにじっくり聴く。
すると　追い討ちをかけるように余計にドロ沼にハマったようになって、
どーにもこうにもしようがなくなり
かえってスッキリしたりするので、結構お薦めですよ。