商品市場を守る
6月12日(金)、衆議院経済産業委員会で商品先物取引法(現行の商品取引所法の改正)について法案審議が行われました。 ネットは社会を変えるといわれますが、今や国会の各委員会の審議の状況は、インターネットで生中継を見ることができます。今回の法改正においては、これまで行為規制のみでトラブルが多く、かつ近年増加の傾向にあったロコ・ロンドン金取引(店頭取引)と海外先物取引(外国の取引所取引)について、開業規制を導入することが最も重要な改正点です。この改正により、誰もが事業を行えるため投資家をだます業者が存在しているロコ・ロンドン金取引と海外先物取引について、トラブルを大きく減少できます。付随しては、許可を得て国内の取引所での取引を扱っている商品取引会社が、悪質業者と混同されることを懸念せずに、店頭取引や海外先物取引を投資家本位の形で取り扱うことも期待できます。商品取引会社は、売買高の低迷による収益の悪化から廃業が増え、これが流動性の低下につながっています。新たな収益源が生じることは、商品取引会社の減少の歯止め、流動性低下の歯止めになり、市場を守ることになることが期待できます。ちなみに、行為規制とは、誰でも事業が行えるが、事業を行う場合には取引に伴うリスクを顧客に説明するといった一定の行為を義務づける規制です。また、開業規制は、無許可営業を禁止して許可(登録も効果としては同じです)を得た会社のみが事業を行えるとする規制で、許可を得て事業を行う会社には行為規制が課されます。法改正の内容を08年に産業構造審議会で検討した際に最も争点となったのは、不招請勧誘禁止の導入でした。不招請勧誘(ふしょうせいかんゆう)とは、勧誘することを求めていない人に対して、訪問や電話によって取引を行うための契約を結ぶように勧めることです。投資を巡るトラブルは、リスクを説明せずに「絶対儲かります」と言って多額のお金を投資させるという典型事例のように、「だます」ことに本質的な原因があります。国内の取引所取引についてすでに禁止されている「断定的判断の提供」をはじめとして、法令違反がないように厳格な法執行を行うことによってトラブルを抑制できます。一律の事前規制である不招請勧誘の禁止を国内の取引所取引に導入する必要はありません。産業構造審議会では、日弁連(日本弁護士連合会)や消費者団体の委員が商品取引全般に不招請勧誘禁止を導入すべきと強く主張されました。何回にも及ぶ議論の結果、最終的には、国内取引所についての苦情・相談が大きく減少し、一方、店頭取引の苦情相談が大きく増加していることから、店頭取引のみ不招請勧誘を禁止することに委員全員が合意し、それが報告書に盛り込まれました。法令上の仕組みとしては、不招請勧誘の禁止を法律で規定し、その対象となる取引を政令で指定するとの方式と採用するとなりました。そして、この産業構造審議会の報告書に従った法改正案が国会に提出されました。ちなみに、消費生活センターに寄せられた苦情・相談件数について2003年度から07年度の5年間における変化を見てみますと、国内取引所については5,159件→894件と83%も減少しているのに対して、店頭取引は61件→1,182件と1,840%もの増加です。この不招請勧誘の禁止に関し、今日の審議において、民主党の大島敦議員の質問に対して、二階経済産業大臣は次のように答弁されました。減少しているとはいえ相当程度のトラブルがあるため、店頭取引に加えて、当初の投資金額以上の損失を防ぐ仕組みとなっているものを除いて、取引所取引についても不招請勧誘を禁止する。トラブルが解消していかない場合には、損失限定の取引所取引も不招請勧誘禁止の対象とする。さらに、二階大臣は、質疑の中で、トラブルが減少しないなら施行から1年を待たずに不招請勧誘禁止の対象を損失限定の取引所取引にも拡大する、トラブルの減少ができないなら、監督権限を消費者庁に委譲するくらいの覚悟である、とまで答弁されました。大島議員が質疑の際にトラブルの例として、国民生活センターに寄せられた苦情・相談の事例を列挙しました。10の事例でしたが、「ロコ・ロンドン金取引」(3事例)、「原油オプション取引」、「海外オプション取引」、「原油の海外先物取引」、「海外先物取引」、「とうもろこしの海外先物取引」、と8事例が店頭取引と外国の取引所取引です。国内の取引所取引については、「金の国内先物取引」、「ガソリンの先物取引」の2事例のみでした。国内の商品市場を国際競争力あるものにしようと、1990年と98年に経済産業省の一員として商品取引所法改正に携わらせていただきました私にとって、大臣の答弁は、どこか遠くの世界のできごとのようでした。野党が過半数の議席を占める参議院での可決が困難との事情があったと推察します。客観的なデータをもとに関係者の英知を結集した審議会の結論を民主党が否定するのであれば、この国会での法案成立にこだわらずに、不招請勧誘の禁止は店頭取引のみを対象とする、との正しい政策論を展開する途があったのではないでしょうか。商品市場が使いやすいものとなるか否かの最大の要点は、「流動性」、同じ価格に対して出される注文の量、です。国内の取引所取引に不招請勧誘の禁止が導入されることになりますと、この一律の事前規制によってこれまでのビジネスモデルの維持が困難となり、商品取引会社の廃業がさらに拡大しかねません。これは、流動性の更なる低下、更なる廃業という負の連鎖となって日本の商品市場の存続を脅かします。商品市場を守るべく、市場と取引の実態を真に理解している商品取引業界から、タブーなく起死回生の手立てを考え、実現していかなければなりません。