中部の石油市場
冷徹な数字ですが、日本の商品市場は2003年をピークとして2009年には1/4(154百万枚→36百万枚)に減少しました。この間、世界の商品市場が4倍(634百万枚→2,312百万枚)に伸びたことからしますと、この縮小が特異なものであることがわかります。ちなみに、この数字は、「出来高」すなわち、取引所で取引された売りと買いの組合せがどれだけあるかを示すものです。この市場の縮小により、4つある商品取引所も厳しい状況にあります。東京工業品取引所(東工取)は、発表によりますと、2008年度の23億円に続いて2009年度も11億円の、2期連続の最終赤字を計上しました。発表はされていませんが、日刊工業新聞の報道によりますと、東京穀物商品取引所(東穀取)も、2008年度の11億円に続いて2009年度も7億円の2期連続の最終赤字を計上したとのことです。同じく発表はされていませんが、日経新聞の報道によりますと、中部大阪商品取引所(中部取)については、4期連続にて2009年度は2億円の最終赤字を計上したとのことです。中部取に関しては、取引所自身は「そのような内容を決定した事実はない」とコメントしていますが、5月後半に入ってから2011年1月に解散する方針との新聞報道がなされています。今日5月28日(金)の日経新聞では、27日(木)に開催された臨時理事会において解散に向けて上場商品の扱いについて議論がなされ、受渡枚数の増加している石油製品については東工取に移管を要請することとなったと報道されています。ちなみに、今日5月28日(金)の中部取の出来高は、ガソリンが3,047枚、灯油が1,226枚です。受渡が増加しているとの記事がありましたので、取引所のホームページ掲載の数字をもとに確認してみました。中部取は取引の単位である1枚が10kl、東工取は1枚が50klと1枚あたりの量が異なります。そこで、正確に比較するため、量であるkl換算にて、1999年の同時上場以来の両取引所の各月の受渡量をドットコモディティのメンバーがグラフにしてくれました。一貫して東工取の方が受渡量が多いのですが、東工取の数字は2004年頃から4万klから8万klの間で変動はしながらも停滞傾向です。これに対して、中部取の数字は着実に増加し、2008年頃からは2万klから4万klの間になっています。直近の2010年4月については、東工取の39,600klに対して中部取が32,540klと迫っています。中部取の石油市場は、受渡を名古屋港とした中京地区のローカルな市場です。石油上場の検討を中部取・東工取両取引所が検討していた時期に私も現地を見学しましたが、名古屋港では石油の生産者である元売会社から独立した石油卸売会社がタンクを保有しています。このため、系列での販売を重視する元売会社の方針にそう影響されることなく、受渡が比較的多く行われているのです。受渡が多いということは、「物資の調達・販売」という流通機能を取引所が果たしていることになります。また、商品市場で形成された価格が実際に取引される価格に収れんするということから、公正な価格形成がなされているとも評価できます。ドットコモディティは中部取の会員ではありません。株式会社取引所の場合は、取引所で取引をする取引参加者と株主とは必ずしも同一の主体ではありません。一方、会員取引所の場合は、会員は取引所で取引を行うと資格を得るために取引所に出資をしなければなりませんので、会員は取引参加者の立場であるとともに同時に株主の立場になります。中部取の会員となっている同業のある方は、株主の立場としては資産が目減りする前に解散して持分がより多い状態で戻るほうがよいと言っています。報道の流れからしますと中部取は残念ながら解散となる可能性が高そうです。仮に解散となる場合には、受渡が多く、石油の生産・流通に携わる企業が中京地域の流通の場として利用している石油市場について、何らかの形で残すことが重要です。中京地域のローカル市場ではありますが、中部の石油市場は実業者に利用されている貴重な「産業インフラ」です。商品市場が製品の調達・販売に利用できるとして信頼を置いている実業者の期待を裏切る形で中部の石油市場が廃止となりますと、利用していても、いつなくなってしまうかわからず、そのような不確実性のある市場を利用するのは止めようとして、日本の商品市場全体についての実業者の信頼を失うことにもなりかねません。中京地域の石油の実業者もでしょうが、商品市場に携わる者として、中部の石油市場が東工取に移管・承継されることを切に願う次第です。