アリスメンディはゆっくりと首を横に振った。
「いや、ラス・カサス殿も聖ローザも、ふたりともイエズス会ではなくドミニコ会に所属していた。
今、わたしが世話になっている聖カタリナ修道院もドミニコ会に属している。
そなたたちが訪れたモソプキオ村のロカ殿も、ドミニコ会の神父であったろう?
そなたたちインカ族や先住民の人々の不当な境遇に心を砕いてきたのは、決してイエズス会の者たちだけではないのだよ。
それに、ジェロニモ、そなたたち黒人の者たちは、インカ族以上に苦難が深かったはず。
聖ローザのように黒人たちにも手を差し伸べた聖職者は、この国ではかなり限られていたからな……」
ジェロニモは「はい」と、噛み締めるように返事をした。
それから熱を帯びた口調で続ける。
「そんな中でも、トゥパク・アマル様はインカ族だけを助けようとするんじゃなくて、黒人奴隷のオレたちにも目を向けてくれました。
黒人奴隷解放令を出してくださったんデス!
だからオレは、トゥパク・アマル様についていこうと決めました。
そのトゥパク・アマル様に忠誠を誓っているアンドレス様にも、ついていこうっテ!」
「──ありがとう、ジェロニモ!」
改めて絆を確認するかのように視線を交わし合っているジェロニモとアンドレスの横で、飄々とした表情を崩さぬヨハンにもアリスメンディは目を向ける。
「ヨハン、そなたは、スペインから渡ってきたのか?
それとも、このペルー副王領で生まれたのか?」
ひとキャラメッセージ
「日本はそろそろ梅雨のシーズンと聞きます
皆さま、どうかお身体にお気を付けてお過ごしください。お読みくださり、いつも本当にありがとうございます
」byこいゆーる
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。
≪ジェロニモ≫(インカ軍)
義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。
スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。
スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。
身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。
これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。
≪ペドロ≫(インカ軍)
インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。
此度のアンドレスの旅の同行者の一人。
20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。
≪ヨハン≫(スペイン軍)
スペイン軍の歩兵。20代半ば。
偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。
スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。
≪マリオ≫(インカ側)
アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。
≪リリアーナ≫(インカ側)
聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。
≪アリスメンディ≫(インカ側)
イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。
かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。
英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。
上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。
≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)
植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。
単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。
キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。
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