映画粒 2021年1月 韓国映画のOBたち
テレビ「新・日本男児と中居」の「第1回勝手にナカデミー賞 韓国映画編」を視聴。韓国映画大好き、という中居正広のおススメ韓国映画14本はフィルム・ノワール、ノワール・アクション系、社会派作品が多かった。出演者4人のうち、中居氏以外の3人がパク・チャヌク監督『オールド・ボーイ』が韓国映画への入口だったと語る。『オールド・ボーイ』日本公開時(2004年)レビュー。(再掲)「獣みたいな人間でも生きる権利はあるのではないか」映画の前半でこの言葉が意図するのは監禁された怒りの吐露ともしかしたら自分に監禁されるだけの理由があったのではないか、という思い出せない自分の罪に対して怯える気持ち。そして、復讐に燃える自分のモンスター(怪物)性を意識する潜在意識の意味がこめられているようだ。しかし映画の最後では同じ言葉の意味も異なってくる。獣・モンスターの意味が、怒りと復讐に我を忘れた怪物、という意味ではなく、人間の人類の倫理を逸脱してしまった、という意味になってくる。映画は復讐を描きながら愛に挑戦している。私たちの知っている愛は、決して人間の倫理を踏み外さないもの。モンスター性は社会の規範と心の深淵に押し込め、獣みたいな人間になってまで愛を貫こうとはしないはず。人間社会の制限の中で始まる愛が、倫理的で相対的なものだとしたらウジンが望んだのは実姉への愛で、原始的な意味で究極の愛、絶対的な愛だった。復讐のワルツはそこから始まった。監禁された理由を知らないデスははじめは復讐のモンスターだった。監禁した者の獲得と探求のための復讐の物語が始まる。一方ウジンの復讐の始まりは愛する者に対する後悔と喪失で始まった。対立する2人の復讐がどこで交差するのか。人道を踏み外したウジンは愛のモンスターとして復讐を始める。その復讐は、復讐のモンスターだったデスを同じ愛のモンスターに引き摺り下ろすことだった。ウジンはデスにも愛の挑戦をさせたかったのではないだろうか。「砂粒であれ岩の塊であれ水に沈むのは同じだ」姉を愛そうが、娘を愛そうが、愛のモンスターであることに変わりはない。デスがウジンの復讐に気づいた時愛することの畏れと滅びる愛を知った。社会では許されないウジンの愛、恐るべき愛、滅びるべき愛に自分も足を踏み入れたことを知り、もはやウジンを否定できなくなる。そう、砂はウジンで自分は岩なのだ。滅びる愛に身を投げたのは同じなのだ、とデスは思い至る。ウジンはさらにたたみかける。ウジンの復讐はまだ続いている。自分は知っていて、姉を姉として愛した。お前は知っていて愛せるか、と。人間の倫理を飛び越え、娘を愛して愛のモンスターになってしまったデスはこうしてウジンの愛と立場を理解する側に追い込まれる。ウジンの復讐によって、肉親を愛する、愛してしまうという世界を知ることになり価値観が変わる。デスもウジンと同じ善悪の彼岸(倫理を超えたところ)の住人になってしまうのだ。その状況でウジンはデスに娘を愛し続けられるか、と問いかける。ここでデスは父親の顔に戻って身を挺して娘を守ろうとする。ウジンも愛する姉を守りたかった。愛する者を守れなかった後悔と喪失感が復讐の原動力だったウジンにとって、自己犠牲的なデスの行為は、自分に不可能だった強い愛情表現なだけに眩しかったに違いない。ウジンの弱みである。そして、「知っていて」愛することはできない、と最後に何もかも知らなかったことにしたいと望むデスは「知っていて」愛した、と堂々と話すウジンがやはり眩しかったのだと思う。デスの、父親の弱さである。愛のモンスター、それぞれが秘めた弱さが悲しみになって心に残る。この復讐に勝敗はなかった。善悪の彼岸、滅びる愛の世界と向き合うのは辛いがニュージーランドで撮影したという雪山に残る足跡のように人知れずひっそりと深く陰翳を残すような、そんな情趣の映画だ。=======*=======*=======*=======*=======公開され20年近く経っても『オールド・ボーイ』が熱くテレビで語られていることが感慨深い。そして、韓国映画好きなOB(オールド・ボーイ)たちの熱い語りにより、新しく韓国映画に惹かれる人もいるかもしれない、という楽しい予感もする。自分の場合は、韓国の友人に勧められて観たポン・ジュノ監督『殺人の追憶』がきっかけで韓国映画を愛するようになったので...COVID19下、リアルに会って映画話をするのは今は難しいけれど、TVやラジオ、インターネットの中の誰かのちょっとした一言で韓国映画の世界に入ってくる人がいると思うとワクワクする。ポン・ジュノ監督がゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞受賞スピーチで言った「ほんの1インチにも満たない字幕という小さな障壁を越えればもっと多様な映画に出会えるはず(拙訳)」も想起する。中居氏お勧め韓国映画14本が書かれたメモもテレビで公開されていた!イ・ソンギュン、チョ・ジヌン主演『最後まで行く』ファン・ジョンミン、チェ・ミンシク、イ・ジョンジェ主演『新しき世界(新世界)』チョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、ハ・ジョンウ主演『暗殺』ハ・ジョンウ、ペ・ドゥナ主演『トンネル 闇に鎖された男』ウォンビン主演『アジョシ』イ・ビョンホン、チョ・スンウ主演『インサイダーズ 内部者たち』キム・サンギョン主演『鬼はさまよう』ソン・ヒョンジュ、チャン・ヒョク主演『ありふれた悪事』キム・レウォン、ハン・ソッキュ主演『監獄の首領』キム・ミョンミン主演『特別捜査 ある死刑囚の慟哭』マ・ドンソク主演『犯罪都市』ソル・ギョング主演『あいつの声』ソル・ギョング、チョン・ウソン、ハン・ヒョジュ主演『監視者たち』(ドラマ「レッドアイズ 監視捜査班」は『監視者たち』のリメイクらしい)そして...キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン主演『1987、ある闘いの真実』(レビュー未執筆の作品もあるが...)『殺人の追憶』日本公開時(2004年)レビュー。2004年3月27日『殺人の追憶』舞台挨拶レポ。来日したポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ、パク・へイルについて。(再掲)時差が、現代との落差が笑いを誘う。近代化をすすめている国で、変貌しつつある社会でパク・トゥマン刑事いわく、犯人は「顔を見ればわかる」ものだったり、容疑者には飛び蹴りをくらわせる。藁をもつかむ気持ちでムーダン(巫女)に犯人の居場所を聞いてみたりもする。ただそのおかしさは「おまえ(犯人)は、いま、どこにいる?」という必死の思いから来るもので、哀しさが通底している。また、科学的な捜査を推進しようとしながらも、しだいに容疑者に対する怒りを抑えきれなくなるソ・テユン刑事が理性と情動のカオスのような葛藤を見せる姿にも哀しみと心の痛みが通底している。映画に登場するいろいろな顔、貌が印象的だ。刑事、被害者、村の人、容疑者、市民たち...苦悩と悔しさと哀しみに顔をゆがめてスクリーンに重なる顔を忘れえない。それらの顔が重なりあって韓国の歴史を構築しているようにも見える。そして、たくさんの顔のなかで、顔のない犯人は事件とともにずっと観客の記憶に残る。犯人は普通の人、平凡な人という印象だったという少女の言葉と、それを聞いたソン・ガンホの反応、貌を観て事件はまだ彼の中で終わっていないことがわかる。少女の言葉は黄金色の稲穂の上を風が渡るようにゆっくりと見る者の心に浸透しひろがっていく。事件を正視すれば、犯人は私たちが生きている世界の一員で、一市民として暮らしているのだと知って愕然とする。これが私たちの生きている社会。だからソン・ガンホの最後の表情を見て、窓に鏡に自分の顔を映しているような気持ちにもなる。彼の中でまだ事件が終わっていないように、観客のなかでも事件は終わらない、長く追憶に残る映画となる。ポン・ジュノ監督が日本公開初日に舞台挨拶で、「命をかけるつもりで(映画の)素材にあたらなければならないと思った」と語り、ソン・ガンホが遺族や事件にあたった刑事たちに配慮して、「その人たちの心の痛みを増やさないように、熱情をもって演技をすることが、いい映画を(つくって)見せてあげることが、その人たちの助けになると考えた」と言う通り、刑事たちの心の痛みが熱く伝わってくる映画。雨の中の撮影はパク・ヘイルによると「体感温度がマイナス25度くらい」だったそうだが、雨の日のトンネルのシーンとともに長く心に残りそうなのが稲穂の風景だ。映画を観る前と観た後ではその田園風景は違ったものに見える。のどかな村の風景のどこかに死体が隠れていたということがわかり、現実の社会を捉えなおすことを促しているようだ。映画はこの世界を鳥瞰させ、人間像を俯瞰させる。ジョン・ダン John Donneの詩 "Meditation XVII" がその風景に重なる。No man is an island, entire of itself;every man is a piece of the continent, a part of the main.・・・・・・any man's death diminishes me, because I am involved in mankind,and therefore never send to know for whom the bell tolls;it tolls for thee.人は誰もひとつの島そのものではない、人は人類という島の一部、ひとつの断片だ。・・・・・・誰であれ、人の死は私に喪失感をもたらす、私は人類の一部だから、人類の一部が失われたから。だから誰のために弔鐘が鳴っているのか知ろうとすることはない。鐘は汝のために鳴っている(拙訳)事件を追憶し刑事の苦闘に迫り被害者の死を悼むと同時に、深い人間理解と社会洞察をも示した普遍的な価値のある作品といえる。=======*=======*=======*=======*=======to be continued...!?buzz KOREAClick...にほんブログ村 韓国映画にほんブログ村 映画にほんブログ村 映画評論・レビューにほんブログ村 韓国情報にほんブログ村 K-POPにほんブログ村Copyright 2003-2025 Dalnara, confuoco. All rights reserved.本ブログ、サイトの全部或いは一部を引用、言及する際は著作権法に基づき出典(ブログ名とURL)を明記してください。無断で本ブログ、サイトの全部あるいは一部、表現や情報、意見、解釈、考察、解説ロジックや発想(アイデア)・視点(着眼点)、写真・画像等もコピー・利用・流用・盗用することは禁止します。剽窃厳禁。悪質なキュレーション Curation 型剽窃、つまみ食い剽窃もお断り。複製のみならず、ベース下敷きにし、語尾や文体などを変えた剽窃、リライト、切り刻んで翻案等も著作権侵害です。