昨日の続き。。。
バッティングの「軸」について
「野球雲の見える日」さんから、また引用です。
本の内容はともかく、その中の一文に、こういう記述があった。
「イチロー選手は、体重移動を使わなければもっと打てるのに…」
はぁ?目を疑った。これ、どういう意味?確かに、イチロー選手は、体重移動を大きく使うイメージが強い。特に日本にいたときはそうだった。しかし、先日このブログでも紹介した、イチロー出演のCM(日興コーディアル証券)を見ると、それほど大きな体重移動はなく、むしろ基本通り。まさに教科書のような打ち方なのである。腰がしっかりと入り、頭の位置はほとんど動かない。バットの出方(インサイドアウト)、ヒットポイント、フォロースルー…。非の打ち所がないのだ。それなのに、なぜそんな記述を安易に載せるのか?少なからず腹が立った。
これはおそらく、「体重移動」という言葉の定義があいまいだからだろう。この本の著者は、何をもって体重移動と呼んでいるのか。その辺をはっきりさせないと、読者が大きな誤解をしてしまう。かなり危険な表現である。
私も指導の現場では、この言葉を使うときには慎重を期す。乱用すると、必ずと言っていいほど、こちらが意図していない上半身の動きが大きくなってしまうからだ。この言葉を説明するためには、体を縦に走る「軸」の理解が必要なのだが、まずはそこから整理しようか。
通常、軸と言うと、野球の場合は体の中心軸を指すことが多い。そして、この軸がぶれないように、折れないように、という指導につながっていく。これが圧倒的多数を占める。大打者、バリー・ボンズもこの点に意識を置いている。
ただし、これは「中心軸=回転軸」という意味においての重要性である。回転体の軸がぶれたり、傾いたりすれば、当然全体の動きもおかしくなる。このことは物理的に確かに正しい。コマやでんでん太鼓の動きを想像すればよくわかるだろう。しかし、だからと言って、体重移動(軸の移動)はダメと簡単に言ってもらっては困る。こと野球のバッティング動作は、回転だけではないからだ。そのことを理解せずして、体重移動や軸の話はしない方が無難である。
このブログでは何度も書いているが、バッティングでは、回転の前に「腰が入る」動きがある。これがバッティングにおける体重移動の真意である。つまり、回転の前に回転軸はまだ存在するわけもなく、あるのは「重心軸」(もちろん、中心軸も存在する)。つまり、体の重心点と地球の中心とを結ぶ線である。
バッティングでバットを構えたとき、通常、重心線の通り道は体の中心よりもキャッチャー寄りの股関節に近づく。そして、そこで蓄えた力を、向かってくるボールに対してぶつけていく。その過程で、重心線はピッチャー寄りの股関節近くに移動し、そこから徐々に体の回転が始まっていくわけである。ここで初めて回転軸が出現し、それは頭の中心を通る線(脊柱)になる。ボールを見ているのは目だから、あまり意識しなくても頭は動かさないはず。頭は上半身の一部だし、バットを持っている手も上半身の一部ゆえ、できるだけその軸となる体幹は動かしたくないのは当たり前のこと。回転が始まってからの体重移動は当然やめた方がいい。
回転軸と重心軸。この混同が体重移動という言葉の誤解を招く。この本の著者は、一度でも野球をやったことがあるのだろうか。イチロー選手の体重移動は、体の回転が始まる前の重心軸の移動であり、「股関節を使った体重移動(腰の入り)」なのである。上半身はただその動きに付いてくるだけ。ひとたび回転が始まれば、ピタッとぶれなく体が回るから、あれだけの精度でバットにボールを当てることができるのだ(動体視力の要素も多分にあるのだが…)。野球のバッティングでは、この体重移動がないと、ボールに力は十分伝わらない。構えたままの状態でボールを引き付ければ、間違いなく詰まるし、外角へ逃げていくボールにはバットが届かない。だから「前に突っ込む(上体から軸が折れること)」という現象が起きやすくなるのではないか。外角のストライクゾーンが広いアメリカではなおのことである。
逆に言ってやろうか。
「松井秀喜選手は、もう少し体重移動を使えばもっと打てるのに…」
※一昨年から見られるようになった、重心を少し下げた構えやガニ股の動きは、自ずと腰の入りをしやすくするという意味で、とても理に叶っている。これはぜひ続けてほしいなぁ。
ブログランキング参加中⇒現在?位
1クリックお願いします