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「みらい」出航!!

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「ジパング」の小説!!

「ジパング」の小説!!

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2005.07.14
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カテゴリ:小説「ジパング」
「報告。一九時三0分、訓練終了しました」

艦橋にいる角松に報告が届く。

「よし、5分遅れだな」
「なお、一分隊藤木二曹、二分隊柳一曹が負傷」
「藤木?想定外の負傷か。どうした」
「ハッ。ダメコン中に手を打撲した模様」

 気概が足りん。と角松は思うが口にはしなかった。そういった艦内の雰囲気がどうあるべきかなどというのは、艦長の一存で決定するものだと思うからである。副長の俺がああだこうだと言うべきではないのだ。

「まあ、よかろう」

 と穏やかに口を開いたこの男こそ「みらい」艦長梅津三郎一等海佐である。

「一月前の一0分から見れば、錬度は上がっとるよ」

 と他の艦長が聞けば能天気とも楽天家とも取られるようなことを言うこの男が角松は好きだった。梅津は口調こそ厳しくはないが、相手によって主張を180度変える様な器用な真似はせず、一貫した態度をとってきたからだ。



 先の環太平洋合同演習(リムパック演習)にも角松は梅津の指揮の下で参加していた。

 リムパック演習とは、米国海軍が主催する太平洋地域最大規模の多国籍軍事演習のことである。米ソ冷戦時代の1971年にアメリカの呼びかけで西側諸国が集まり合同演習を行ったのが始まりで、日本も海上自衛隊が80年から参加している。ただし、直接的な攻撃の役割を一切担わずに、あくまで米海軍の支援という形での参加であった。

 これに角松らが参加したとき、米海軍の水偵機が一機、自軍戦艦の誤射により打ち落とされるという悲劇が起きた。乗組員二人は海上に投げ出されたが、現場に急行した海上自衛隊護衛艦が角松の指示の下で迅速な救出を行い、奇跡的に両名共に一命は取り留めた。これに対し米海軍はシステムの誤作動であり、断じて人為的な事故では無いと言う事を強調。米軍内で解決可能であったものに自衛隊が介入したとして事態は軍事問題を超え、政治の世界へと舞台を移そうとしていた。

 当然に評価されるべき角松らの行動も自衛官の権限を超えた独断専行な判断であり、由々しき問題だとして角松の責任が問われた。海軍上層部は政府との折り合いを取るべく角松の処分に踏み切ろうとしていたが、これに反対し角松をかばったのが梅津とその上官らであった。

「彼らは自衛隊員として人命救助という職務をまっとうしただけです。政治責任を問うのならば、責任は艦長である私のみにあります」

 と、自らの進退を盾に、若い角松らを救ったのである。

「自衛官は自らの信念と職務に忠実であれ」

 これが、梅津が角松らに体を張って伝えた事であった。この後、梅津は昇格の機会を大分逃してしまうが、献身的なその後の活動により、ついには一艦の艦長にまでなった。

 この事件以来、角松は梅津を慕い、信頼している。曲げない信念をしっかりと持っている生粋の船乗りである、と思い尊敬しているのだ。 押し黙る角松に、梅津は笑顔で声を掛けた。

「張り切りすぎちゃ先がもたんよ。緊張もほどほどにな」




「金曜カレーはカツカレーか。食うぞー」

 夕食時の「みらい」の食堂は騒々しい。すでにほとんどの席が屈強な海の男たちで埋め尽くされている。角松は、小栗と菊地の前の席が空いているのを見つけ小栗に話し掛けた。

「航海長」
「はっ」

 席に着くや否や、角松は小栗に声をかける。いきなり役職で呼ばれ、小栗は気の抜けた返事をした。

「聞いたぞ。鉄帽の上から部下を殴って気絶させる奴があるか」
「ですがノロマに船を沈められちゃ、たまりませんや」

 小栗の言い分はもっともである。いったん陸を離れれば四方を海に囲まれているため、船というものは常に自然の脅威にさらされているのだ。ましてや「みらい」は軍艦である。一人の行動如何が乗組員全ての命を奪いかねない。上官である小栗が厳しく下士官に当たる事が、結果、彼らの命を守る事になる。当の本人がそこまで考えていたかどうかはさて置き、角松は言葉を返した。

「上が殺気だってどうする。上官に必要とされているのは冷静さだ。血の気の多い役はあいつらに任せておけ」
「まだ五分遅れ…でしょ」

 と、菊池が口を挟む。優雅にコーヒーを口に運び食後を楽しんでいたところを無粋な話題で邪魔されたのに少しご立腹なのか、生来の性格なのか。これに対し、ゆったりと皮肉で返す。

「目標時間にはいまだ五分「も」達していません。まあよかろうって艦長の口癖ですが、あれではいつまでたっても士気は上がりませんよ」

 角松はカレーを口に詰め込みながら聞いている。菊地はズズッとコーヒーを喉に流し込むと続けた。

「今回、上が本艦を選んだのは梅津艦長のおっとり加減では独断専行の危険が無い、と判断したからでしょう。ですが今回はリムパック演習とは違って―――」

「キエロ アセル エル アモール コンティーゴ」

 菊地の言葉を遮り、角松がいきなりスペイン語で話した。

「なんすか副長。それ?」

黙ってしまった菊地に代わり小栗が聞く。

「スペイン語でな、君を抱きたい、ってんだ。エクアドルに上陸したらミサイルよかこっちの方がよっぽど役に立つ。お前らも覚えとけ」

 あの時の「スペイン語でも練習するか」というのは冗談じゃなかったのか。小栗は呆れてものも言えない。そんな小栗に代わり、菊地は精一杯の皮肉を込めて言った。

「平和ボケも極まれリですな」
「馬鹿言え。敵情を知るって立派な兵法じゃねえか」

 と角松は笑っている。角松の言う兵法とは言わずもがな、孫子の兵法のことである。彼は入隊前から父の書斎に忍び込んでは軍法書に目を通していた。中でも孫子はお気に入りなのか会話の中でよく引き合いに出す。一呼吸置くと角松は真剣な眼差しで菊地に

「いいか菊池。艦長を批判する事は許さんぞ。それこそ士気に関わる」

 と諭した。だが菊地は穏やかな表情である。そう、この角松の梅津艦長への全幅の信頼こそが、菊地に安堵を与えているのだ。角松は先のリムパック演習の頃から梅津になにかと面倒を見てもらっている。同じ頃から菊地も共に梅津の下で時を過ごした。角松は梅津を親同然に慕い、尊敬している。すると何故か菊池も梅津を信じてみたくなるのだ。

 突然、パシャとカメラのシャッターが瞬いた。

「仕官どうし和気藹々ってところで一枚いただきました」

 一人の男がカメラを構えて立っていた。「みらい」に取材目的で搭乗している雑誌記者の片桐である。出港前からやたら乗組員らの周りをうろつき、なにかとカメラをふりかざすこの男が、角松はあまり好きではなかった。取材、取材と誰にでもへこへこと頭を下げる様な軽薄さがどうも鼻につくのだ。

「角松さん、インタビューしたいのですがね。少し時間をとってもらえますか」
「飯の後にしてくれ」

 と心底ウンザリしながら答える。まあ、適当に答えれば直ぐに帰るだろう。食事を終えると、二人は「みらい」艦内の居住区へと移った。





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最終更新日  2005.07.15 00:13:24
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