テーマ:今日聴いた音楽(75658)
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20代の頃、盛岡の教育会館にコンサートに出掛けた。友人2人と連れ立ってやっととれた最上階の席で、その人が現れるのを待っていた。
やがて暗転した会場の、たった一箇所だけスポットライトを浴びたステージの上に、スローなナンバーと共に彼は現れた。派手なジャケット、細身の脚が際立つパンツ・・・ゆっくりと会場のファンに手を振り、視線をとばし、そして最前列の女性ファンを抱きしめた。 「愛しあおう~♪」と歌いながら。抱きしめられた彼女の膝から下の力がふううっと抜けていくのが、一番後ろの列にいた、私にも分かった。 彼の名は忌野清志郎。日本のロックを牽引してきた男。今、ロッカーとしてステージに立っている、いや、あの頃「男の子」であり「野郎」だった誰もが、その背中を追いかけていた。 私が彼の音楽と出逢ったのはまだ小学生の頃、ラジオから流れてきた「雨上がりの夜空に」が最初だった。今まで聴いたことのないような歌い方・・・独特だけど、心の奥のほうから絞り出すような声。曲もその声も、すっかり好きになった。 それからいろんな曲を、ラジオから聴くようになった。「スローバラード」「エンジェル」「ダーリン・ミシン」「トランジスタ・ラジオ」・・・。 もっと大きくなって、自分で稼ぐようになったらコンサートに行きたいなあ。・・・そう思い続けてやっと、その日が来た。最後列でも彼の放つ光や歌声は、すぐに私の心をわしづかみにし、揺さぶった。 しかも教育会館の席は、後ろに行くにしたがってセリ立つようになっていて、最上階でも手を伸ばせば清志郎に届きそうだ。ダイブしたらそのまま、ステージに降り立てそうなのだ。 ソウルフルな時間はあっという間に過ぎて、「みんな愛してます」という言葉を残して彼は去っていった。また来たいなあ・・・そう思った。 そう思ったのに、日常に振り回されて、想像もつかない未来にジタバタしているうちに、あれからもう十数年の時が流れた。 その間に清志郎はがんと闘って、昨年は復活コンサートをして、私も少しは生活のペースがつかめるようになってきて、今度また、コンサートに行ってみたいなあと思っていた。 だけどその日が来る前に、清志郎は天に還っていった。彼のロックの根底にある「愛」を、沢山の人に伝えて。 世の中のいう「ダメ先生」や「ダメ生徒」への愛とか、休日ごろごろしてて邪魔にされちゃってる「オヤジ」への愛とか。 「愛し合うことこそが、すべての基本」だってこと、一番大切だってこと。 もうこれから、彼のコンサートに行くこともできないし、彼の作った新しい曲に出逢うこともできない。それは寂しいし、哀しい。 だけど、「忌野清志郎」と彼の曲たちと一緒の時代を過ごせて幸せだったなあと心から思う。 ソラで歌える沢山の曲を残してくれて、本当にありがとう。 今夜はどうしようもなく、昔のナンバーが聴きたい気分だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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