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先週の金曜日、当牧場の黒毛和種の子牛(といっても、生後10ヶ月だが・・・)2頭を市場に出した。気温もそこそこあったが、湿気でますます暑いうえに、500頭からの牛の熱気。
さらにその飼い主と、買い手と、市場の職員で広い市場もすごい熱気である。 黙っていても顎から汗がしたたる。セリの直前まで牛の身体を拭き、牛を落ち着かせたり他の牛の売値を見たりして順番を待つ。 2頭ともいつもよりはいくぶん高値で、長野と新潟に旅立って行った。 家に帰るともうお昼。2時には獣医さんが来て、ホルスタインの雌の子牛の手術がある。臍ヘルニア、いわゆる「でべそ」で、ほっておくと腸が癒着したりすることもあるので、子牛のうちに手術をする。 麻酔を打ってうつらうつらしている状態の牛をあおむけに寝かせて脚を固定して手術する。牛は視界が広いので目をかくして身体を押さえて獣医さんのアシストをする。 ・・・また汗だくである。獣医さんはもっと、汗だくである・・。 今日手術をしてもらっている子はおとなしい。普通なら引き綱をつけるだけでも逃げ回り、頭を振り回して抵抗するが、すんなり捕まってくれる。今日もまったくそのとおりで、麻酔を打つのも寝かすのも、まったく手間がかからない。 獣医さんによるとやはりもはや癒着を起こしているとのこと。しかも2箇所にわたって手術しなくてはいけなくなっているらしい。出っ張ってたるんだ皮を切り、癒着をほどいて縫っていく。あいかわらず牛はうとうと、おとなしいものだ。・・・と。 わーーーーーー! どうやら麻酔が切れ掛かってきたらしく、牛は脚をバタバタさせて大騒ぎしはじめた。やむなく麻酔を追加する獣医さん。 わーーーーーー! わーーーーーー! わーーあーー 効いてきたらしい。 すかさず傷口を縫い進める獣医さん、汗だくである。 こうして2時間半にも及ぶ大手術は無事終了。牛もすぐさま抗生剤と麻酔の覚める注射をしてぽこぽこ歩いて寝床に直行。これがまた、驚くほど早く覚める 気付くともう夕方、搾乳が待っている。 そっから3時間、えさやりやら搾乳やらしてやっと一息ついた。外はもう真っ暗である。あれほどムシムシと暑かった日中の風も、涼しさをはらんできた。 牧場主と水分補給しながらぼんやり眺めていた暗闇の中から、小さな黄緑がふよふよと飛んできて牛舎のなかに舞い降りた。え?もしかして・・・。 ほたるである。牛舎の床のコンクリートがほわん、ほわんと黄緑の光に小さく照らされる。 自分の心が子供のようにはしゃいで、きらきらしてきたのが分かる。かごに捕まえてお部屋に持って帰ろうかな、あ、それともカメラ、カメラ・・・なんていろいろ頭に浮かぶ。 だけど結局何もせず、ほわほわ光りながらあちこち歩きまわり、思い出したように飛ぶ小さな光を見続けた。ほたるにとってはこのひとときも短い一生のなかの大きな時間。自由に飛んだり、水辺で遊んだりさせたい気もするし、この小さな光は宵闇の涼風に吹かれながら、目で追いながら楽しむのが一番いい気がした。 やがて小さなその灯りは、また湿った漆黒のなかに溶けていった。 ひどく暑かった日の、一番最後に訪れた涼風の、ちいさな贈り物。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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