テーマ:「愛」・「命」(2791)
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今日、女優の南田洋子さんが亡くなった。晩年認知症を患い、先日くも膜下出血を発症して意識もない状態だった。
ちょっと前にテレビで南田さんと、それを介護する夫の長門弘之さんの番組を見た。かつて「芸能界一のおしどり夫婦」と言われていたご夫婦だったが、実際には南田さんはかなりご苦労されていたようだった。 義父の介護を十数年、芸能活動をしながら一人でなさっていたり、ご主人の事業の失敗で出来た負債の返済に追われる毎日を過ごしていた。 だけどテレビでお見かけする南田さんからは、そんな苦労などまったく想像できなかった。いつも静かに微笑んでいて、時々長門さんに「そんなこと言っちゃだめよ」なんてたしなめたり、派手ではないけど華のある人だった。 認知症を発症してからも負債の返済のために女優業を続けていたらしいが、台詞が覚えられなくなってきてかなり苦しんだ時期があったようだ。それでも働かなくてはならない。だけど、自分の思うように頭も身体も働かなくなってきている。どんなにかつらくて、息がつまりそうな切迫感と闘っていただろうと思う。 認知症になってからの南田さんの様子をテレビで見ていて、母とだぶった。もちろん南田さんと母では環境も見た目もだいぶ違うけど、症状は完全に同じだった。 自分の思うことがそのとおり口にできないもどかしさでいらいらしたり、かと思うと子供のように無邪気に笑ったり。自分の夫の存在さえも分かったり、分からなかったりして甘えたり、不安そうにしたり。 生前の母と父を見ているようだった。 そんな南田さんに回復の兆しがあるということで、番組のスタッフさんが会いにいったことがあった。そのとき南田さんは以前のように静かに微笑み、そしてスタッフの一人に「あなた顔色が悪いんじゃない?」と体調を気遣った。 認知症になっていろいろなことを忘れてしまっても、人を思いやる心は残っていく。その人が根本的に持っているものは最後まで残るものなのかもしれない。 いつだったか、母の認知症がだいぶ進んでしまって私の名前は分かるけど、あるときは娘だったり、あるときは母親だったり、息子の嫁だったりしていたころ、母を車に乗せてドライブしながら用足ししたことがあった。 運転中に急に咳が出て止まらなくなった私に母が一言、「かぜを引かないようにしないと」と言った。いろんなことを徐々に忘れていくなかで、私の体調を気遣ってくれた母。 そんな母と南田さんの姿が重なって涙が出た。 南田さんも母と同じ昭和8年生まれ。苦労をしてもそれを決して外に出さない、一度愛して共に歩いている夫を決して見放したりしない強くて高いプライドを持った昭和一桁生まれの素敵な女性だ。 年をとっても認知症になっても、美しくて清らかな女性だ。 どうか安らかに、心静かに。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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