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2007/06/24
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カテゴリ:京極夏彦

京極夏彦の「前巷説百物語」(2007)

を読んだ。

小股潜りの又市が御行の又市になるまでの話で,「旧鼠」は「嗤う伊右衛門」の事件が始まる2年ほど前のようだ。

又市が上方を売って江戸に出てきた頃の話である。ひょんなきっかけから損料屋「ゑんま屋」の主人お甲に見込まれた又市は,損料仕事の手伝いから,だんだん仕掛けの中心になっていく。

「ゑんま屋」はあくまでも表の世界にいて「損料(「損した思いを晴らす対価)」を求めようとするのだが,裏の世界の力が必然的に迫ってきて……

結構悲しい話でもあった。

以下はまとめなのでかなりネタバレしています。


寝肥(ねぶとり)
秋。二重の殺人現場を,手遊び屋(玩具売り)長耳の仲蔵が加工した袋状の蛙の皮を使って,女がふくらんだ結果と圧死としてしまうのがおもしろいのだが,又市は「寝惚堕」という病気で「殺し」という「真実が消えた」ことに釈然としないようだった。
亭主に無理難題をいうおもとと,いわれるままに女衒まがいのことをする音吉の捩れた愛という意味では「嗤う伊右衛門」をも連想させる。

☆気にかかった女のために損料30両を出すという又市,一割引くから少々助けろという角助,身売りをして40両をゑびす屋に届けたお葉それぞれの金のやりとりが情のやりとりになっていてよかった。

周防大蟆
「寝肥」の3か月後の年明け。本所での仇討ちの場に大きな蝦蟇が出現して騒ぎになる。
蝦蟇を退治して姿を消したとされる川津盛行は仇の疋田伊織として殺され,討ち手の岩見平七は脱藩して疋田とともに姿を消す。
助太刀を殺してでも依頼人岩見の頼み通りに岩見が疋田に返り討ちにされるようにはかったお甲の図面を又市が引き直した。

☆武器をもたない元公儀鳥見役山崎寅之助の強さに感服。

二口女
使用人の評判もよく,姑との折り合いもよい旗本西川俊政の後妻縫が先妻の子を折檻死させた罪を償いたいが事件を公にもできず……と,ゑびす屋に依頼してくる。
林蔵の調べなどで,縫が町医者西田尾扇の助手と下男に脅されていることがわかり,仲蔵の細工物と本草学者久瀬棠庵の協力で「頭脳唇(ふたくち)」という奇病をでっち上げる。
真相は子供を殺したのも,さらには前妻を殺したのも姑の清だった。
なお,町医者の西田尾扇は「嗤う伊右衛門」(日記は→こちらから)にも登場する。

☆ここらへんからが「巷説」の又市の仕掛けの原形になるのだなぁ。

かみなり
梅雨時。領内の大百姓の依頼で瓦版に載るような仕掛けをして恥をかかせた立木藩江戸留守居役土田左門は蟄居を申しつけられ,又市たちの思惑を超え切腹。
しばらくして,ゑんま屋のお甲と角助が攫われ,角助は半死半生で戻される。又市,林蔵,山崎,巳之八も庚申堂で「裏の渡世」の人間に捕まるが,又市は5日の猶予をもらってゑんま屋に対する意趣返しの依頼の取り消しをはかろうとする。
土田の家族が依頼主はではないとわかり,藩の江戸屋敷に戻って途方に暮れる又市に「謎の老人」が近づき,土田が領内の大百姓としくんだ「隠し米」について教える。
岡っ引の万三が「かみなり」だといって棠庵に持ち込んだ鼬を使って,江戸屋敷にあった隠し米を領内の大百姓に戻し,依頼を取り消させた。
江戸屋敷の蔵を砕いて燃やしたのは「かみなり」ではなく,御燈の小右衛門でだった。

☆土田左門のもつ2つの顔がよかった。また,岡っ引の万三が棠庵にすっかりなじんでしまっているのもほほえましい。又市と小右衛門が初めて出会う話でもあった。小右衛門の死をもって,又市が白から黒になることを考えると,感無量……

山地乳
年が変わった春先。名前を書くと相手が3日で死に,絵馬が黒く塗られるという渋谷道玄坂の縁切り堂の黒絵馬の話題が市中をにぎわわす。
同心の志方兵吾は,絵馬に自分の名前を書き,黒絵馬に霊験がないことを明かそうとする。
一方,ゑんま屋は又市の昔の仲間の文作,玉泉坊を通した大阪の一文字屋仁蔵からの依頼,野非人の弱みに付け込む「稲荷坂祇右衛門」の仕掛けの1つである黒絵馬をつぶすことを600両で引き受ける。
襲撃者があること覚悟をし手配もいていた志方だが,眠っているうちに,山地乳に襲われたが命を取りとめたことになって事件は片付く。
実際には,御燈の小右衛門に鬼蜘蛛(「かみなり」でゑんま屋を襲った賊)を特定してもらった山崎と玉泉坊が彼ら5人を殺し,長耳の仲蔵が山地乳に扮して志方の同僚同心多門英之進と万三を欺いた。

☆志方兵吾のまっすぐさがとてもまぶしかった。仲蔵は道具作りが巧みなだけでなく演技力もあるようだが,「長耳」の歌舞伎の大物って誰だろう?
玉泉坊は,「巷説」の「帷子辻」と「続巷説」の「死神」に,文作は「続巷説」の「船幽霊」に登場する。

文字数の関係で,その2に続きます。


「巷説百物語」についての記事は→こちら,「続巷説百物語」についての記事は→こちら,「後巷説百物語」についての記事は→こちらから。

各話の舞台,登場人物とあやかしは,フリーページの京極夏彦メモ(百物語シリーズ)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。
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Last updated  2007/06/24 10:59:02 AM
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