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2007/07/23
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「小説こちら葛飾区亀有公園前派出所」(2007)

を読んだ。

「ゼータク」な本だ!!

「こち亀」を「推理小説作家」たちが自由にいじって遊んでいる!
そのメンバーが贅沢だ。
シリーズの主人公たちを惜しげもなく登場させているのも贅沢である。

ただ,今回「ゼータク」だと連呼しようと思った直接のきっかけは,この本に対する秋本治のかかわり方なのだ。

「推理小説作家」たちが書いているのは自分たち流の「こち亀」の世界であり「個々の」ストーリーの原作はないが,秋本治が「原作」として名を連ねている。
それはまあもちろん当然だが,その秋本がこの本の中で「原作者」としてよりも「挿画家」として完璧に機能していた点がとっても「ゼータク」と思えたわけだ!!!!

時代小説によくあることで,挿画自体はとても素敵なのに細かい点でストーリーに合っていない絵って,案外多い。
画家が,挿画に関する部分だけしか読んでいない,あるいは編集者から聞かされた内容だけしか知らずに描いているからだと思う。

今回の場合も,最初の3点を見た時点で「これまでに描いたものの使いまわしかな?」などと思ってしまったわけだ。

だが,勘違いだった!!
特に,かなり後ろの方になるが,両手両足でパソコンのキーを打って「江戸川区民賞」の原稿を書く両津の姿に大笑い……

今回,「作家」は自分たちそれぞれのキャパで「こち亀」をめいっぱい読み込んで,そこから楽しいストーリーを作り,「画家」秋本は,ストーリーを読み込み,楽しんでから自分の絵を描いた……そんな「ゼータク」な世界がこの本の中にある。

数行の前置きのつもりがついつい長くなってしまったが,以下は個々の作品について(作家と登場人物の背景などは「解説」にたっぷりあるので,以下はあくまでも個人的感想というよりコメント)。


幼な馴染み(大沢在昌)
ミヤベ,キョーゴクの親分というだけではなく,推理小説作家たちの親分でもあるらしいのだが,なんとなく「パス」している作家の一人。
今回の話は両津と藪の関係がうまく収束しておもしろかった。舞台を浅草にもってきたところにも感心した。
ただ,読んでいないので,藪と両津のくしき因縁などについてかけないのが残念(笑)
鮫島と晶に注意した男がプロというのがミステリ仕立てだろうけれどそれにはその場で気づいた。


池袋ー亀有エクスプレス(石田衣良)
「クドカンが好き」とかいっている割に「IWGP」は観ていないし,原作も読んでいない。
石田衣良は「平成教育……」で何回か見たし,ペンネームの由来も知っているのだけれど……
テレビドラマ「下北サンデーズ」(日記は→こちらから)の原作者でもあった。

両さんを自分の世界に強引にお連れしたというところかな。秋本画伯描くキザな靴を履きメールを打つ両さんの姿が最高。
また,「少年ジャンプ」の世界では考えられない両さんの行動があったが,そうか「プレイボーイ」連載だったか(笑)


キング・タイガー(今野敏)
ノンキャリアから方面本部管理官にまでなった退職警視が持ち前の熱心・勤勉・努力でプラモ作りをするが,それを通して,両さんの「神技」が強調される。
その両さんに「ほめられ」て,そこで終わっているところが,「こち亀」の世界とはちょっと違う。両津の「破壊神」の面を出して,元警視を「仇敵」か「奴隷」にしてほしかった(笑)

それはともかく,秋本画伯にとっては楽しい作品だったようで,挿画にもものすごく力が入っていた。
今野敏の作品は,これを機会に読んでみようかなというのと,合わないかなというのが半々(笑)


一杯の賭け蕎麦―花咲慎一郎、両津勘吉に遭遇す(柴田よしき)
花咲の「おたおた」ぶりはそのままなのだが,両津巡査長が意外と(でもないのだが)人情に厚い一面を見せ,花咲が頑張ってしまう(笑)
最後には両さんの「計算勝ち」となるのだが,「融合」という意味では不自然なく両者が同時に存在していた。
葛飾まで行き,両津主導で話が進んでいくが,書かれているのはあくまでも花咲の世界であるように思えた。


ぬらりひょんの褌(京極夏彦)
「こち亀」に「時間」がないことを利用して,自分の世界の中に両さんを取り込んでしまったとんでもない作品(笑)だが,こち亀の世界の匂いをもっとも色濃く出した作品でもある。
大原部長と寺井だけを登場させているにもかかわらず,彼らの語りから漫画やアニメそのままの両津像が浮かび上がってくる。
京極堂シリーズと同じように鳥山石燕の「ぬらりひょん」の画から始まるのにも,「この世には不思議なことなど何もないのですよ」の決め台詞にも感動させられる。
「ぬらりひょん」の正体が「百鬼夜行-陰」で関口が目撃した「川赤子」(日記は→こちらから)だったことにもびっくり(笑)
しかし,作家先生が最初に死んでしまったり,探偵は財閥の長になっていたり,警察幹部に「老人」の知り合いが多かったり(この中に例のハズレ刑事は入っているのだろうか?)と,本編がここまでくるのには何年かかるのか……(笑)
特別登場の南極夏彦はなんとなく覚えがある程度。「どすこい」も読み返さねば(笑)
少年警察官であるがきデカ(山止ではなく山上たつひこの作品)のこまわり君「男おいどん」の大山くんもさりげなく登場していた(笑)


決闘、二対三!の巻(逢坂剛)
結局「夢オチ」だが,それを不愉快に思わなかったのは,両さんの世界が「夢」だからかもしれない。
賭の仕掛けは途中でわかったのだが,……う~ん,やっぱり夢ではなくそのまま現実にして,何らかのオチをつけてほしかったかも(笑)
小説の世界にいる「とんでもない警察官」たちの目からの「両津像」が垣間見られて楽しかった。


目指せ乱歩賞!(東野圭吾)
一見各種文学賞選考に対するパロディのように思えるが,そんなことはない。
中途選考者の思うように書かせたら,彼らの隙をぬって作家になった最終選考者の意にそまないことは最初からミエミエであり,楽しむべきは両さんのハイテクを利用した神出鬼没ぶりだ(笑)
「こち亀の世界」を文章で「再現」したという意味では,すべてを両津にかぶせすぎてしまった嫌いはあるが,この作品がイチバンかもしれない。


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Last updated  2007/10/06 09:59:02 PM
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