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カテゴリ:楽園に吼える豹
個室の扉が開いたかと思うと、吊り目の若い男―――先ほどアスカたちの目前を通過した男だ―――が、口元に軽く微笑を浮かべて入ってきた。
「! あなたは…!」 「おや、私のことをご存知でしたか。光栄ですな、藤堂元帥」 「もちろんです。初めまして、ミスター・キリサキ」 藤堂は立ち上がり、握手を交わした。 初対面ではあったが、彼の名前は藤堂も知っている。 カナメ・キリサキ。 現大統領、ニコラス・サーディーンの最大の政敵、カール・マクレラン議員の下で修行を積み頭角を現した若手の有力株。 派閥を無視して評するならば、藤堂・ユイ・キリサキの三人が若手で最大の出世頭といえる。 特に彼は、ニコラス・サーディーンが失脚しカール・マクレランが政権を握った暁の成功が約束されているのだ。彼の表情は自信に満ち溢れていた。 ユイの「会ってほしい人」というのは、キリサキのことだったのだ。 遅ればせながら藤堂はそう悟った。 キリサキはユイに会釈し、席に着いた。 「さて藤堂元帥、今日来ていただいたのは他でもない。 サーディーン政権がそろそろ崩壊しようとしているのは…もちろんご存知でしょうな?」 「…ええ」 ご存じどころではなかった。 表には出さないものの、最近の藤堂はそのことにばかり悩まされていたのだから。 藤堂が現在の地位を得たのは、ひとえに養父ソウイチ・藤堂と親しかった現国防総省長官に見出されたからである。 そしてその長官は、サーディーン派にどっぷり浸かっている人物だった。 藤堂とサーディーンに個人的なつながりはない。 だが経緯を考えれば、サーディーン派と目されても仕方ない。 となれば、次の選挙でサーディーン派の議員が負ければ間違いなく藤堂の地位は危うくなるし、サーディーンが辞任することになれば元帥の地位を失ってしまうのである。 いや、今でも藤堂の地位は危うくなっている。 マクレラン派のユイ・京極が副長官に就任したのがいい証拠だ。 マクレラン派の意向を容れねばならぬほど、サーディーンの地盤が揺らいでいるということだろう。 「マクレラン議員は次期大統領の最有力候補。近々行われる選挙でも我らの派閥が勝利する見込みは高い。 そうなれば―――いずれあなたを解任せざるを得なくなります」 食前酒に口をつけたユイが、ちらりとキリサキを一瞥した。 「ですが、それはあまりに惜しい。あなたは間接的にサーディーン大統領とつながっているだけで、彼との関わりは深いとはいえない。 それにあなたの優秀さはうちでも有名でしてね」 藤堂はキリサキの空々しい世辞にも眉一つ動かさない。 じっと彼の話を聞いている。 「そこで―――どうでしょう。 あなたさえその気ならば、マクレラン派に鞍替えされては」 つづく 人気ブログランキングに参加しました。 よろしければクリックお願いします♪(*^▽^*) ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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