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2008年11月24日
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カテゴリ:楽園に吼える豹
個室の扉が開いたかと思うと、吊り目の若い男―――先ほどアスカたちの目前を通過した男だ―――が、口元に軽く微笑を浮かべて入ってきた。


「! あなたは…!」

「おや、私のことをご存知でしたか。光栄ですな、藤堂元帥」

「もちろんです。初めまして、ミスター・キリサキ」


藤堂は立ち上がり、握手を交わした。

初対面ではあったが、彼の名前は藤堂も知っている。

カナメ・キリサキ。

現大統領、ニコラス・サーディーンの最大の政敵、カール・マクレラン議員の下で修行を積み頭角を現した若手の有力株。

派閥を無視して評するならば、藤堂・ユイ・キリサキの三人が若手で最大の出世頭といえる。


特に彼は、ニコラス・サーディーンが失脚しカール・マクレランが政権を握った暁の成功が約束されているのだ。彼の表情は自信に満ち溢れていた。

ユイの「会ってほしい人」というのは、キリサキのことだったのだ。
遅ればせながら藤堂はそう悟った。


キリサキはユイに会釈し、席に着いた。


「さて藤堂元帥、今日来ていただいたのは他でもない。
サーディーン政権がそろそろ崩壊しようとしているのは…もちろんご存知でしょうな?」

「…ええ」


ご存じどころではなかった。
表には出さないものの、最近の藤堂はそのことにばかり悩まされていたのだから。

藤堂が現在の地位を得たのは、ひとえに養父ソウイチ・藤堂と親しかった現国防総省長官に見出されたからである。
そしてその長官は、サーディーン派にどっぷり浸かっている人物だった。


藤堂とサーディーンに個人的なつながりはない。
だが経緯を考えれば、サーディーン派と目されても仕方ない。

となれば、次の選挙でサーディーン派の議員が負ければ間違いなく藤堂の地位は危うくなるし、サーディーンが辞任することになれば元帥の地位を失ってしまうのである。

いや、今でも藤堂の地位は危うくなっている。
マクレラン派のユイ・京極が副長官に就任したのがいい証拠だ。
マクレラン派の意向を容れねばならぬほど、サーディーンの地盤が揺らいでいるということだろう。


「マクレラン議員は次期大統領の最有力候補。近々行われる選挙でも我らの派閥が勝利する見込みは高い。
そうなれば―――いずれあなたを解任せざるを得なくなります」


食前酒に口をつけたユイが、ちらりとキリサキを一瞥した。


「ですが、それはあまりに惜しい。あなたは間接的にサーディーン大統領とつながっているだけで、彼との関わりは深いとはいえない。
それにあなたの優秀さはうちでも有名でしてね」


藤堂はキリサキの空々しい世辞にも眉一つ動かさない。
じっと彼の話を聞いている。


「そこで―――どうでしょう。
あなたさえその気ならば、マクレラン派に鞍替えされては」








つづく


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最終更新日  2008年12月20日 18時25分27秒
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