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カテゴリ:楽園に吼える豹
「そこで―――どうでしょう。
あなたさえその気ならば、マクレラン派に鞍替えされては」 今日京極くんにこの場を取り持ってもらったのも、そのことを伝えるためなのですとキリサキは笑って言った。 笑うと瞳が更に細くなる。 キリサキの申し出は意外であったが、藤堂としては是が非でも受けたいものであった。 もともとサーディーンに愛着などない。 「…しかし」 「藤堂元帥、このことはマクレラン議員も承知です」 藤堂の懸念を打ち消すように、ユイが口を開いた。 つまり、ユイやキリサキが勝手に独自で動いているわけではないというのだ。 今のうちに国防関係に強い藤堂を自陣営に引き入れ、政権をとった後の基盤を作ろうとしているのだろうか。 「…………」 藤堂はしばらく沈黙した。 悩むことはない。 復讐のためには―――“あの男”の手がかりを探すには、高い地位が必要だ。 上司や部下がどんな人間であろうと知ったことではないが、自分が高い位置(ポジション)に立つことは絶対条件だ。それは譲れない。 このままでは自分はただの人になってしまう。 「ただの人」に落ちれば、ようやく近づきかけた“あの男”との距離がまたも開いてしまう。 それは絶対に嫌だった。 (けれど) 『あたし、藤堂を助けたい』 「まあ、結論を急ぐこともないでしょう。まだ時間はあります」 ですが、とキリサキは付け加えた。 「我がマクレラン派はガーディアン・ソルジャー制度の廃止を政権奪取時の最大課題として位置づけていましてね。 その点についてはもちろん藤堂元帥にもお分かりいただかなければなりませんな。 まあ、GS嫌いで有名なあなたのこと、これは願ってもないことでしょうが―――」 キリサキの目の端には僅かに苦々しい表情が浮き出ていた。 ユイはそんなキリサキを意味ありげに見ることはあったものの、その後はほとんど口を開かなかった。 「不躾なことをして、すみませんでした」 車へ戻る途中、ユイは藤堂に詫びた。 ユイがマクレランとの仲介役となってくれたのは願ってもないことであったので、藤堂にしてみれば謝られるいわれはない。 むしろ彼女は、藤堂の救世主として彼に威張ってもいいくらいだ。 「おまけにキリサキが失礼なことを………」 『マクレラン派に入りたいのなら、GS廃止促進の立場を崩さないことだ』 キリサキの言葉には暗にそんな響きがあった。 本人に悪気はないのかもしれないが。 「…彼は、相当GSが嫌いなようですね」 そう言って、藤堂ははたと気付いた。 このセリフは、今まで自分が他人に言われてきた言葉ではないか。 藤堂はもう、単純にGSを憎むことなどできなくなっている。 復讐心のぶつけ所としてGSを無理矢理あてがい八つ当たりしていただけだと―――そう気づいてしまったから。 ええまあ、とユイは苦笑いする。 尊敬するカール・マクレランたっての頼みであったから、ユイは迷わずキリサキを藤堂と引き合わせたのだが、率直に言って彼女はキリサキが好きではなかった。 優秀なのは認める。 だが、ことガーディアン・ソルジャーとなると人が変わったようにヒステリックになるのだ。 マクレラン派がGS廃止を検討しているのは事実だが、それはあくまでGSの人権を保護するという観点からなされるべきだとユイは考えている。 しかしキリサキは、どうもGSのことを「化け物」として考え、GS制度廃止を「化け物の駆逐」と位置づけているようなふしがあった。 彼がそんな感情を抱いているのは、多分に個人的な事情による。 しかし、いやしくも国の政に携わる政治家が、そのような個人的感情を隠すことなく前面に押し出すというのはいかがなものか。 「彼にはGSの妹さんがいるんですよ。どうも彼女と反りが合わなかったことが、原因らしいんですけど」 「妹!?」 広い世の中だ。GSを兄弟に持つ人間がいても、何ら不思議なことではない。 だが、GSを「妹」に持てる人間は、少なくともセルムにはたった一人しかいないのだ。 女性のGSは―――一人しかいないのだから。 「…そう、あなたのGS、アスカ・清里ですよ」 ユイの声が頭の中でこだまする。 あのカナメ・キリサキとアスカが、兄妹。 しかも二人は反りが合わず、兄のほうは妹を毛嫌いし、社会的に抹殺しようとしている――― どちらかを取れば、どちらかを捨てることになる。 何という皮肉だ。藤堂は天を仰いだ。 つづく 人気ブログランキングに参加しました。 よろしければクリックお願いします♪(*^▽^*) ↓ お待たせしました。 前回の更新から一ヶ月ほども間があいてしまいました・・・^_^; なので、お詫びの意味もこめまして話はちょっと長めです。 アスカとキリサキが兄妹だったという事実が明らかになりました。 更にややこしくなってきましたです。 とはいえ既にリーゼマンという強敵がいますから、キリサキが小者になってしまわないよう、がんばってキャラを立たせていこうと思います(*^-^*) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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