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カテゴリ:楽園に吼える豹
「…どうだった?」
レオンの問いかけに、ユキヒロは首を振った。 「インターホンには出ていただけましたけど……ちょっと話しただけで切られてしまいました。 どうしちゃったんでしょう、アスカさん…」 「…………」 アスカの様子がおかしいことに最初に気付いたのはレオンだった。 昨夜アスカと電話した後、やはり彼女の様子が気がかりで再度かけなおしたのだが、何度かけてもつながらなかったのだ。 アスカが携帯の電話を切っていることなど滅多にない。 そこで迷惑だとは思ったが、夜にアスカのマンションに行ってみた。 アスカの家に固定電話はないから、携帯の電源が切られているとなるともう直接家に押しかけるしかないのである。 が、インターホンに出たアスカの言葉は意外なものだった。 『今は誰とも話したくない』 レオンはアスカと知り合ってまだ二年だが、こんな物言いはおよそ彼女に似つかわしくないと思った。 拗ねているような、自暴自棄になっているような。 ともかく部屋に閉じこもって出てこないなど、アスカらしくない。 何が彼女をこんなふうにしたのかさっぱり見当がつかなかったが、ドアの鍵を壊して室内に踏み込むわけにもいかないから、レオンはとりあえず引き下がることにした。 そして翌日、今度はユキヒロにアスカを訪ねさせたのである。 だが結果は、レオンと似たり寄ったりだったようだ。 「…アスカは何て?」 「それがですね…」 「アスカさん、ユキヒロです。大丈夫ですか?」 呼び鈴を押してしばらくしても返事がないので、ユキヒロはドアの外から声をかけてみた。 静寂。 ユキヒロは途方に暮れた。 原因は何なのだろう。レオンから聞いた限りでは、どうやらGSが連続して人を傷つけたことについて心を痛めていた様子だったらしいが―――… 『…何?』 その時、か細い声がインターホン越しに聞こえてきた。 これがアスカの声か? ユキヒロはぎょっとした。こんな蚊の鳴くような声で喋るアスカを、ユキヒロは知らない。 「アスカさん、どうしたっていうんですか? これしきのことで落ち込むなんて、あなたらしくないですよ。 まだGS制度が廃止されると決まったわけではありませんし……きっとまた、藤堂元帥のGSに戻れますよ」 思いつく限りの励ましの言葉を述べた。 だがそんな言葉など効果がないのではないかと不安になるほど、さきほどのアスカの声は弱々しかった。 『……事件を起こしたGSは…二人とも“何も覚えてない”って言ってんだろ』 「え?」 『あたしが将来そうならない保証なんてどこにもない。また…また誰かを傷つけるかもしれないんだ……“あの時”みたいに。 お前だって知ってるだろ』 「!」 何が言いたいのか、ユキヒロはすぐに分かった。 アスカは今でも六年前のことを引きずっている。 感情を爆発させ本能の赴くままに他人を傷つけた自分を、今でも恐れているのだ。 「アスカさん、けれど……」 『それだけじゃない。あたしが藤堂のそばにいても何の意味もない。 あたしはこの世で、藤堂を守るのに一番相応しくない人間なんだよ……!』 がちゃん、と音がして、声が途切れた。 インターホンを切ったのだろう。 最後に聞こえた彼女の声は、震えていた。 どういう意味かはわからない。 けれど、彼女の言葉からして、事態は相当深刻なようだった。 つづく 人気ブログランキングに参加しました。 よろしければクリックお願いします♪(*^▽^*) ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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