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2009年08月20日
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カテゴリ:楽園に吼える豹
目的の女と接触できる可能性は高くない。
そんなことはレオンも百も承知だろう。

先ほどは何となく言いくるめられてしまったが、彼の推理はほとんどが憶測で成り立っている。
自信満々の口調で自分の推理を言ってのけたのは、渋るユキヒロを説得すると同時に、自分自身を鼓舞する意味合いもあったのかもしれない。

けれど、それでも何もしないでいるよりはマシだ。

そう思ったから、ユキヒロは慣れないファッションで、馴染みのないクラブという場所にいる。

レオンは時折ジェイクと言葉を交わす以外は、一人黙々と酒を飲んでいた。
今回は飲酒目的でここに来たのではないとはいえ、酒を一滴も口にしないのではかえって怪しまれる。


(それにしても……)


今日はレオンに声をかける人間が少ない。

以前彼と一緒にここに来た時は、客の女性が次々とレオンに群がってきて、ユキヒロは集団の外にはじき出されてしまった。
ジェイクが見かねて、特別にVIPルームをあてがってくれたほどだった。

ところが今日は、数人の女性が声をかけてくる以外は、レオンに近づく者はいない。
その女性たちについても、レオンは二言三言言葉を交わしただけで、すぐ会話を打ち切ってしまう。

彼の今日の目的は件の謎の女性だから、明らかに違うと思われる女性はわざと遠ざけているのだろう。

他の客たちは遠巻きにレオンを見、これ見よがしに内緒話をしている。
こんな騒ぎが起きる前は散々レオンを持ち上げてちやほやしていたくせに、勝手なものだ。
穏やかなユキヒロも、憤りを隠せない。


(どうしてこんなことになってしまったんでしょう……)


アスカは部屋に閉じこもってしまい、レオンと「普通の人々」との間の疎隔は深まっていく。

ついこの間までは、アスカは元気いっぱいで、懸命に自分の“主人(マスター)”の護衛にあたっていて……レオンも、アスカを見守りつつそれなりに穏やかな日々を過ごしていたのに。

しかしユキヒロの感傷など全く意に介していないかのように、レオンはその場にじっと座っている。


(席を変えてみたほうがいいかもしれませんね……)


もう一時間こうしているが、それらしい女性は現れない。
ユキヒロはいったんカウンター席から離れ、空いているテーブルのほうへ移動した。

何席か間を空けて座っているとはいえ、一人で飲んでいる男が二人並んでいる図は不自然かもしれない。

少し距離をあけてさりげなくレオンの様子を伺おうとしたその時だった。


「ねー、一人?」

「え?」


明るいが絡みつくような声色で話しかけてきたのは、素人目にもけばけばしい女たちだった。
派手な女を見慣れているレオンあたりが見れば普通の女性だったかもしれないが、基本的に女性に免疫のないユキヒロあたりには刺激の強いタイプだ。

ユキヒロが困惑しつつ呆気に取られていると、


「あたしたちと一緒に飲まない?」


ルージュで濡れ光った唇から誘いの言葉が漏れてくる。

世に言う逆ナンだ、と思った途端、ユキヒロの全身が固まった。
こういう状況に遭遇したのが初めてだったのだから、無理もない。


「ねえ、いいじゃ~ん」


なぜ自分が、なぜ、どうして、と自問自答していると、やっと原因に思い至った。

今日の自分は普段の自分ではないのだ。

お洒落なレオンに髪をいじられ洋服を着替えさせられ、はっきり言って派手な外見になっている。
女受けするように改造されたのだ。


(だからって……この状況は予想外…!)


彼女たちの誘いに乗ることも、きっぱり断ることもできず、ユキヒロはただオロオロするばかりだった。


(ああ、レオンならこういう時スマートに切り抜けられるんでしょうね…)


キャイキャイ騒ぐ女たちの相手に四苦八苦しつつそんなことを思っていると、


(まずい!! レオンは!?)


慌ててレオンのほうへ視線を戻す。
だが。


「い、いない……!?」


ジェイクの前でカウンター席に座っていたレオンが、いつの間にか姿を消していた。

声をかけてきた女たちに気をとられていた時間がどれくらいなのか正確にはわからなかったが、いずれその間にレオンがどこかへ行ってしまったことだけは確かだ。


(ま、まさか本当に例の女性と…!? い、いや、落ち着いて考えよう…!)


ユキヒロは声をかけてきた女性を振り切ってカウンターへ走りよった。
ジェイクはグラスを磨いている。


「す、すみません! レオンがどこへ行ったかわかりますか!?」


ジェイクは手を止め、


「知らねえけど、たぶんエグゼクティブルームじゃないか? 
今日そこを使わせてくれって言われてたし。
それにさっき、美人っぽい女に声かけられてたしな。いつもの連れ込みパターンだろ」

「び、美人っぽい?」

「サングラスかけてて顔はよく見えなかったんだよ。でもあれは美人だね。間違いない」


やけに自信たっぷりにジェイクは言っていたが、ユキヒロの耳にはほとんど届かなかった。


(まさか、まさか………!)


『事件を起こしたGSは、犯行の前日もしくは直前に行きつけの酒場に行ってる―――』
『そん時居合わせた客はみんな、そのGSが見知らぬ女と一緒にいるとこを見てるんだ―――』


嫌な予感がした。

「ジェイクさん、その部屋はどこです!?」









つづく

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最終更新日  2009年09月06日 10時45分42秒
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