|
カテゴリ:楽園に吼える豹
『Blue Rose』のエグゼクティブルームはそれなりにゴージャスな作りになっている。
店長のジェイク本人は、「あんまり使う奴がいないから無駄だった」というようなことを言っていたが、派手ではなく、それでいて地味でもないどこかエレガントな内装がレオンは好きだった。 その部屋の真ん中に黒革のソファがある。 そこに、レオンと女が座っていた。 ソファに腰を下ろして初めて、女はサングラスを外した。 色の白い、どちらかと言えば小柄な女だった。 目鼻立ちのはっきりした、エキゾチックな顔立ちをしている。 サングラスが彼女の顔を隠していた時から、レオンは彼女が美人だと確信していた。 その確信は見事に的中していたことになる。 「いいの? 二人っきりで飲んじゃって。周りに誤解されない?」 まだ名乗ってもいない女は、妖艶な笑みを浮かべつつ酒を口に含んだ。 「………別に」 レオンは周りにどう思われようと構わない。周囲の評価や視線など気にしたこともない。 レオンが唯一こだわるのは、自分の気持ち。 彼はアスカのために、自分の恋心を抑えると決めた。 その決心は、多少ぐらつくことはあっても、今までずっと守り続けてきた。 アスカには幸せでいてもらわなければ困る。 そのためには、この一連の騒動を解決しなければならない。 こんな出来事はアスカの笑顔を奪うだけだ。 レオンは隣に座る女を横目で見た。 彼女は、一人で黙々と飲んでいたレオンに、不意に声をかけてきた。 (この女が“アタリ”かどうか―――見極めないと) 潤んだ視線を向けてくる女を、レオンは醒めた目で見つめていた。 ジェイクに教えてもらったエグゼクティブルームへ、ユキヒロは全力疾走する。 ジェイクの店は広い。半分道楽でやっているのだと聞いているが、それにしてはあまりにも大きかった。 エグゼクティブルームへ通じる通路には、「関係者以外立ち入り禁止」の札が掲げられていたが、ユキヒロはそのまま素通りした。 エグゼクティブルームの使用中はいつもそうするのだとジェイクから聞いていたからだ。 (レオン、どうか無事で…!) 自分の不注意でレオンにもしものことがあったら、いくら後悔してもし足りない。 通路を真っ直ぐ突っ切ると、ワインレッドに塗られた扉が見えた。 そこか、と思った瞬間、その扉の手前に長身のいかつい男が立っているのが目に入った。 「!?」 誰だろう。 そう思って、反射的にブレーキをかけた。 相手はゆっくりとこちらを向いた。 足音でユキヒロが近づいてくることはとっくに気付いていただろうに、直前まで視線をわざとそらしていたその男は、不気味な余裕を漂わせている。 「ユキヒロ・カガリか……」 口元に卑しい笑みが浮かぶ。 「!? どうして…」 自分の名前を知っている。 ユキヒロは本能的に危険を察知し、後ろへ飛びすさった。この男は―――敵だ。 「残念ながらお友達は取り込み中だ。 Cクラス程度じゃ暇つぶしにもなんねえが……俺が代わりに遊んでやるよ」 記憶が鮮明に蘇ってくる。この男はルビア共和国の刑務所で会った看守だ。 アスカやレオンから既に聞いていた。 この男がグリンロッドのアドバンスト・チルドレン―――イルファン・アンドロポフであるらしいということも。 だとしたら、普通に戦ったのでは自分に勝ち目はない。 冷や汗が背中を伝っていくのを、他人事のように感じた。 つづく 人気ブログランキングに参加しました。 よろしければクリックお願いします♪(*^▽^*) ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[楽園に吼える豹] カテゴリの最新記事
|
|