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2009年10月07日
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カテゴリ:楽園に吼える豹
落ち着いた色の照明の下、一組の男女が体を寄せ合っている。

だが少なくとも男のほうは、醒めた視線で女を見ていた。


(この女が例の不審人物だとして……一体どうやってGSたちを操った?)


レオンの心は冷静そのものだ。
さっきから女が悩ましげにレオンの体に触れてきても、反応一つしない。

ただ口からは、流れるように嘘が出てきた。


「…いいの? 俺、その気になっちゃうよ?」

「もともとそのつもりであなたを誘ったんだもの。あなたみたいに美しい男は初めて見たわ」


完璧に化粧を施した顔から、心をくすぐる香水の香りが鼻腔を通り抜けていく。
女はまた、媚薬の熱に浮かされたかのような視線をレオンに投げかけた。

一瞬、レオンの頭に「彼女がもしも“ハズレ”だったらどうすべきか」という課題が浮かぶ。

彼女が普通の民間人なら、これ以上一緒にいても得ることは何もない。
彼女と共に一夜を過ごしてもいいが、それではユキヒロが激怒するだろう。

レオンとしても、結果的にユキヒロにナンパの片棒を担がせるのは御免だった。


(となると、“ハズレ”なら適当に切り上げて、出直すしかないな)


もともとうまくいかない可能性のほうが高い作戦なのだ。一度の失敗くらいなんでもない。


「ねえ…あなたの名前、何ていうの?」


女は更に身をすり寄せる。
そういえばまだ名乗ってもいなかったか。


「………そういうあんたは?」

「私? 私は…」


ルージュで光る女の唇から、その後の言葉が続いて出ることはなかった。
いや正確には、女の唇は確かに動いていたのだが、そこから声が放たれることはなかったのだ。

だが彼女の唇は、確かにこう動いていた。


『動カナイデ』―――と。


「!?」


本能的に異変を察知したのか、レオンは席を立とうとした。が、動けない。

腕も、足も、指の一本すら動かせなかった。
視線さえ、目の前の女からそらすことができない。

その時悟った。自分が探していたのは、この女だと。


「ふふ、おとなしくしててね。といっても、動こうにも動けないでしょうけど」


レオンは気付いていなかった。

目の前で妖しく微笑む女と、以前一度会ったことがあるということに。

ルビア共和国でゲオルグ・シュバイツァーをあと一歩のところで追い詰めた時、彼の後頭部に銃口を押し付けた人物。

レオンはその人間の声も聞いていた。
だが、マスクで声がくぐもっていたため、今対峙している女性と同じ声だとは思わなかったのだ。


彼女の名はリズ・ターナー。

ゲオルグ・シュバイツァー、イルファン・アンドロポフと並ぶ、れっきとしたアドバンスト・チルドレンである。









つづく

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最終更新日  2010年01月03日 22時06分50秒
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