カテゴリ:読書
「卵の茹で加減はいかがいたしましょう?」
こう聞かれると、 「黄身をじっくり味わいたいから、半熟で」 私は迷わずこのようにオーダーする(だろう)。 (まあ、そういう店で食事をすることはないが・・・) 決して、 「固ゆでに!(ハードボイルド)」 とは頼まない。 典型的なジャパニーズである私であるが、ハードボイルド小説は大好きである。 高校2年生のときに、レイモンド・チャンドラーと出会ってから何度も読み返している。 一口にハードボイルドといっても、暴力や血に描写ばかりのものもあるが「フィリップ・マーロウ」ものは、どこか「人間臭さ」「優しさ」「思いやり」があって好きなのだ。 最高傑作といわれる「長いお別れ」 は、男の友情を描いたものだ。 もう20年も前に購入した文庫本を、私は今でも大切にしている。 何時読んでもなぜか新鮮なのだ・・・その時々で違った読後感があるからだ。 際立った個性の登場人物・・・読むたびに誰に肩入れするのかが違うからなのか? マーロウの視線を介して考察したり、自分なりに見つめたり・・・面白いし飽きない。 一言で、「マーロウの哲学や美学と、レノックスとの男の友情が描かれた」といわれているが、それだけではないようだ。 戦友同志の友情、少しゆがんだ男女の愛情・・・様々な伏線が張られているのである。 日本でも際立った人気のこの作品が、昨年村上春樹によって翻訳された。 ロング・グッドバイ 村上春樹 村上春樹氏にとって、高校時代に出会ったこの作品への深いオマージュがある様で、紆余曲折を経て新訳に至ったらしい。 また、氏はチャンドラーとスコット・フィッツジェラルドとの接点から、「ロング・グッドバイ」と「グレート・ギャッツビー」との接点に対して考察をしている。 ちなみに「グレート・ギャッツビー」についても、新訳を出されており、こちらも思い入れがあるようだ。 代表作「ノルウェイの森」の中の登場人物である永沢さん (主人公の「僕」が入った寮の先輩。東京大学法学部に在籍し外交官を志望している)の、独特の文学論の中でもフィッツジェラルドのことが語られている。 うだうだ書いてしまったが、私は清水俊二氏の訳本から入り、今回村上春樹氏の新訳を読んだことになる。 結局、清水氏の翻訳の熟読の中で出来た登場人物や舞台のイメージが強力すぎて、村上氏の作品に入り込めなかった。 清水氏の翻訳は、テンポよく劇画のように淡々とストーリーが進んでいく。 村上氏の翻訳では、少し情緒的な感じがする。 西海岸の乾いた空気を感じさせるのは清水氏の訳の真骨頂であり、車のクラクションや雑踏まで聞こえそうな感じがする。 しかし、登場人物の情感に入り込めるのは、現代的かつ少し湿度を感じさせる文体である村上氏の訳のほうが勝る感じがする。 どちらがどうとは言いにくいが、個人的には清水訳の方が好きだ。 シンプルな描写であるがゆえに、行間の「間」を感じさせてくれる。 ただ、長編の世界へ分かりやすくいざなってくれる村上訳は、きっと新たなファン層を発掘してくれるはず。 しかし、最後に思うことは・・・・・ 「自分で原本が読めたらこんなウンチクはいらない」 この一言に尽きる。 学生時代、もっと英語の勉強をすればよかった・・・ この小説のことを思うと、決まって「ギムレット」を頼みたくなる私である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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