>果たして、山さんは勝てるのか?「選挙」
勝負が「得票数」としてハッキリ出るから選挙は面白い。「選挙」と聞けば血が騒ぐ人たちがいる。そう、選挙は“まつりごと”勝てば官軍、ペコペコと誰かれかまわず頭を下げていた候補者が当確の瞬間から「先生」と呼ばれる人になる。>壮絶、ニッポンの選挙「電柱にもおじぎせよ!」(>部分は、この映画のHPより引用)見せていただきましたよ~。天下の与党、自民党の組織選挙ってヤツを。>『選挙』は、この巨大政党がいかなる戦略と方法論を駆使して>「政治の素人」を「公認候補」に仕立て上げ、選挙戦を展開するのか、>裏も表もつぶさに観察したドキュメンタリー映画。なのですが、何より想田監督の友人で、主人公の山内和彦さん(40歳)の経歴がユニーク。東大卒、既婚。子どもナシ。東京で気ままに切手コイン商を営み、政治にはズブの素人。舞台は >2005年秋、“小泉劇場”まっただなか。>自民党から突然の「市議会選挙の候補者公募」の誘いを受け、>その場で決断を迫られた山さんは、「じゃあ応募します」と思わず返事。山内さんは、>小泉首相の大ファンだったのだ。ってトコがなんとも・・・・なのですが、まぁともかく、山さんは、市議会議員の補欠選挙に出馬することに.私もあの土砂降り雨の中、とっても興味をそそられて見に行きましたが(渋谷のイメージフォーラムは好きじゃないなぁ)正直、“映画としてはつまらない”というのが感想。映画の最初、タイトルが出る前に、想田和弘(監督)“観察映画”と出るのですが、これは>「ドキュメンタリーには作者のメッセージが必要」という固定概念に>真っ向から挑戦し、敢えてメッセージ性を封印。>映画を観た観客が自由に観察し、感じ、考え、解釈できる「観察映画」を実現した。なので >ナレーションや音楽、説明が一切無い。そのせいか、見てる途中で“観察”に飽きてしまった私。でも、見終わってから、やっぱりいろいろ考えました。ココから「ネタバレ」です。ご注意を・・・・・・・・・・・・・・・・・・>選挙区は(候補者・山下さんには)縁もゆかりもない川崎市宮前区。>いわゆる落下傘候補。それを、ギリギリの当選とはいえ、投票数2万票も!獲得させるのだから、やっぱり自民党の組織力ってスゴイかも(嫌いだけど)山内さん自身も『俺は区議選で2,000票くらいの器』と分析してるし。しかも、この補欠選挙は>自民党としても負ければ市議会“与党”の座を奪われてしまう大事な選挙。>何としても勝たなければならない。>地元選出の自民党議員や秘書たちによる激烈な戦闘態勢が組まれ、>地方の市議選であるにもかかわらず、自民党大物議員の面々、>果ては小泉首相までが応援に駆けつけ騒然となる。そんな、政党政治の当事者たちには一大事な(補欠)選挙も、肝心の有権者である川崎市民にとっては(そんな選挙あるの?)程度の認識。>山さんは少しでも選挙民に自分の顔を売るため、>神社のお祭りや保育園の運動会、老人会で、>片っ端から握手を求める「電柱にもおじぎ作戦」に出る。なんたって、この選挙のために急遽、東京から川崎に引越してきた山さん。駅に立っても知り合いの一人も通らない。道行く人に訴えかけても、完全に無視される日々・・・。話し相手は学校帰りの小学生くらい。>また、確固たる後援会のない山さんは、>地元選出の自民党議員の組織力と地盤を拝借できなければ当選はおぼつかない。>他の自民党市議や県議、国会議員の支援者に自分への投票を呼びかけ、>党挙げての組織票固めを試みる…。>しかし自民党は、日本型組織の代名詞のような政党。>スーツを一着も持っていなかった自由人の山さんは、>伝統としきたりと上下関係を重んじる党の関係者から、>「何をやっても怒られ、何をやらなくても怒られ」てばかり。そんな“体育会系”な“縦社会”の選挙陣営の中で、選挙運動にド素人の山さんは、候補者なのに地位は一番下。皆に軽んじられ、イジメにしか見えない厳しい指導の数々。屈辱的な出来事の連続。地元の自民党議員や、その後援会の人たちはモチロン、ウグイス嬢はプロだし、事務所で電話作戦をするオバちゃんたちだって、この地域の選挙にかけては百戦錬磨の情報通なのだ。有権者にだけでなく、自民党陣営の中でも(怒られてばかりで)、ペコペコと頭を下げ続ける山内さん。心身共にヘトヘトに疲れた身体を、つかの間だけ横たえる場所は、軽自動車の運転席の中だけだった・・・>映画祭に出席した山さんは、上映後観客から拍手喝采と>スタンディングオベーションで迎えられ、>「可愛い」「どんなにいじめられても決して腐らないのは、聖人並みの精神力」>「痛々しいほど純粋」などと称賛された。 そんな、新人候補者に言いたい放題の自民党陣営から、今度は『仕事を辞めろ』と言われた奥さんが、山内さんと2人きりになった車中で、怒りを爆発させる場面。『言いたいコトは言う』という奥さんに対し山内さんは『言い返すことないよ。人に言われて怒っちゃダメだ』と諭す。時間は午前2時。クタクタの身体を着の身着のままで横たえる2人。奥さんに言われるまでもなく、ずっと(すごく)不甲斐なく頼りなく見えていた山内さんが、この場面だけは唯一、“当選するためにはどんなコトにも耐える男らしさ”を見せたのでした。>多額の選挙費用はほとんどが自腹。>山さんにとって、負ければ借金だけが残る大バクチだった。>『選挙』は、不惑を迎えた山さんの、一世一代の奮闘記でもあるのだ。そんな山内さんの奮闘が報われ。いや、自民党の組織力と、小泉劇場ブームにのって、山内さんは当選を果たすのですが、この「観察映画」が公開されたコトで、日本の珍妙な選挙風景が世界中の嘲笑のマト。自民党川崎支部もいい面の皮。特に、当確の瞬間に事務所にいなくて(自宅にいた)山内さんを、(皆を事務所で待たせておいて自分は来ないなんて『これは切腹ものですよ』と言った地元の若い議員。永島敏行に似たハンサムだけど、嫌なヤツでしたね~。他人の顔色ばかり見て、山内さんにいつも辛くあたる。人間的な狭量さが露見して、きっとこの映画の中で一番、株を下げたね。この議員だけでなく、この選挙事務所の人々の、山内さんに対する態度の冷たいコト。落下傘候補は悲しいね。普通、地方の選挙だと、候補者の知り合いや友人、果ては親戚まで巻き込んで、『俺たちの候補者を議会に送るぞ!』という、候補者への信頼と愛情があるものなのに、この陣営には(この観察映画を見る限り)それが感じられないから、余計に山内さんが孤独に見えるのかもしれない。それにしても、映画の中で山内さんが政策について語るのは、いつも『小泉総理の改革を進めます!』のワンフレーズだけ。一度だけ、神奈川新聞のインタビューに答えてたけど、なんだかシドロモドロだったし、子育て支援策も、なんだか金のバラまきみたいに聞こえた。私が有権者だったら、山内さんには入れないナ。