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カテゴリ:韓国で暮らす
日本の反戦詩人といえば、すぐに思い浮かぶのが金子光晴である。
私にとって、読まなければと思いつつ、延び延びになっている詩人でもある。 「時」について、金子光晴は次のように表現している。 きれい好きな掃除女のぬれ雑巾のやうに、 『時』は、すぐさま僕らのしたあとを拭ひとる。 皿をなめとる野良犬の舌のやうに」(「花火」) この詩の一節が何を意味するのか? 自由に想像してみよう。 「今」という瞬間は次の瞬間には「過去」となる。 瞬間瞬間、私たちのやったことはそのまま「過去」のものとなる。 「目に見える世界」から「目に見えない世界」へと移りかわる。 「きれい好きの掃除女のぬれ雑巾」も「皿をなめとる野良犬の舌」も、そんな「時」の習性を巧みに表現している。 そんな「時」の流れの中で、人は何かを書きとめ、記録を残す。 書くということ、あるいは記録するということは、人間にしかできない。 時代を超えて、残された記録、すなわち「過去」から何かを学び、「今」に生かすことが出来るのも、人間にしかできないことだ。 また、「野良犬の舌」とは過去の人間の記録を消し去ろうとする理性や良心を失った野蛮な動物的本能と見ることも出来るだろう。 ドイツの元大統領ヴァイツゼッカーの名演説を思い出す。 <罪の有無、老幼いずれを問わず、我々全員が過去を引き受けねばならない。全員が過去からの帰結に関わりあっており、過去に対する責任を負わされているのである。 過去に目を閉ざすものは結局のところ現在にも盲目となる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険にも陥りやすいのだ。 若い人たちにかつて起こったことの責任はないが、その後の歴史の中でそうした出来事から生じてきたことに対しては責任がある。若い人たちにお願いしたい。他の人々に対する敵意や憎悪に駆り立てられることのないように。敵対するのではなく、たがいに手を取り合って生きていくことを学んでほしい。(永井清彦訳)> 「過去に目を閉ざすものは現在にも盲目になる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者はそうした危険に陥りやすい」 「過去」を教訓として生きるのは、人間の道。 「過去」を消し去ろうとするのは、非人間の道。 どちらを選ぶかによって、21世紀のアジアの平和は180度変わっていくだろう。 アジアの人々と深き友情を結べるかどうか- その鍵を握っているのは、実は私たちなのだ。 ************** 以下は『アサヒ.コム』より 反戦詩、生んだ家族愛 金子光晴の私家版詩集見つかる 2007年08月17日 詩人金子光晴(1895~1975)が、戦時中に家族3人の作品を集めてつくった手書きの私家版詩集(38編)が見つかった。金子の作品24編のうち8編は改作されて戦後発表されたが、残り16編は「金子光晴全集」(中央公論社)に収録されず、研究者にも知られていない。反戦・抵抗の詩人の家族への愛があふれ出た詩集だ。 作品「三点」の冒頭 見つかった詩集「三人」 外箱に「詩集 三人 金子光晴」。B6大、200ページ余に及ぶ厚さ約2センチの帳面に、同一人物とみられる丁寧な文字がインクで記されている。「評伝 金子光晴」の著者、原満三寿(まさじ)さん(66)が先月、古書市で入手した。金子の長男で早稲田大教授だった森乾(けん)(1925~2000)の妻登子(たかこ)さん(69)は「存在は知らなかったが、金子の自筆に間違いない」と話す。 金子は44年12月、家族3人で山梨県の山中湖畔に疎開する。金子は公表を期待せずに詩作を続けており、詩集はこのころに編まれたとみられる。「チャコ」と呼ばれた妻の作家森三千代(1901~77)と「ボコ」といわれた乾の詩もあり、「チャコ作」「ボコ作」などと記されていた。 疎開中は、家族3人が一カ所に肩を寄せ合って暮らした貴重な時期でもあった。「裏冨士にて」という詩で金子は、「この生きてゐる眼で/ボコをみることのできる/そのよろこびだけで。/そのよろこびを分りあふのは/父とチャコと二人だけだ。」と、3人のきずなの深さを歌った。金子の戦争嫌いは徹底しており、乾の徴兵回避のため松葉をいぶした煙を吸わせて体調を崩させたことはよく知られている。 48年の詩集「蛾」に収められた「冨士」や「三点」の原作とみられる詩では、のちの「子供/息子」「母」という表記が「ボコ」「チャコ」だった。登子さんは「今回の詩の方が、何としても守り抜くべき家族への愛情が、生々しく出ていると思う」と話す。 抵抗の意志も随所に表れる。「人よ。なぜ人生を惜しまない。/こまやかな人間の生を、/なぜもっといつくしまない。/夜々、重い爆弾を抱いて/人の街のうへにはこぶのは誰だ。/また、誰のために何をまもるか。/むなしいもののためのさらに/むなしいあらそひよ!」(「裏冨士にて」)と訴えた。 「金子の反戦姿勢は、強烈な家族愛ゆえだった。今回の詩集はそれを教えている」と原さんは話している。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.08.20 15:44:34
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