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ニッポンとアメリカの「隙間」で、もがく。

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2011.06.11
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カテゴリ:帰国子女
私の「日本人でもない、かといって、西洋人でもない、中途半端な自分」に揺らぐアイデンティティ問題は、時を変え、場所を変え、フランスでの3年間の滞在を経て日本に帰国してからもはや30年以上経った今も消えることがなかった。むしろ、アメリカ人との間に二人の子供をもうけ、日本とアメリカの文化の中で子供たちを育てるようになってからは、それまでほとんど下火になっていたその葛藤の炎がまた勢いを得て燃え盛っているような気さえしていた。

小学校1年生から3年生までの、たった3年間のあの経験だけで、これだけ自分のアイデンティティが揺らぐような思いをいつまでも引きずるのはなぜなのか。それは長い間、自分の中での大きな疑問だった。

ところが、それに一つの回答を与えてくれた出来事が思いがけず起こったのである。

私には「帰国子女仲間」としていつも愚痴というか相談というか、折に触れて話を聞いてもらっている親友(実際には彼女の方が海外生活がずっと長い)がいて、今回もその一環にすぎないはずだった。ところが、今回、何回かメールをやりとりした後、彼女はこう指摘したのである。それは、私が海外にいた年数が比較的短く、しかも帰国後に強烈な帰国子女いじめに遭ったり、その後長いこと日本社会にいたために帰国子女というアイデンティティを押し殺さざるをえなかったのではないか、と。

これには非常に意表をつかれた。しかし、アイデンティティが揺らぐのは、海外にいた年数の長さではなく、その後の「日本」社会で過ごす年数の長さのせいだったとすれば、それは非常に納得が行く。

今思えば、帰国直後の私は確かに少し「ヘンな日本人」だったのだと思う。たとえば、私の口調はまるで親が子どもに話すような口調だったのではないか。3年間、日本語のインプットといえば、ほとんどが親からのもので、子供同士で話す日本語のインプットは、月に数回の、父と同じ駐在員の子供たちとの遊びをのぞいては非常に少なかったからである。

そこで私はお約束の帰国子女いじめにあったわけだが、そのことについてはすでにこちらに詳しく書いたのでこちらに譲るとして、私はそのいじめを通じて、「日本人」に対して2つの結論を出した。

その1は、「日本人」は、自分とは異質のもの、それがほんのちょっとしたこ とでも強烈に拒否する。どんなに日本人になろうと思って努力したって、最後の0.01 パーセントの違いで拒絶されるということである。
たとえば、これはホントにバカみたいな話なのだが、私はある時「机」という言葉がすぐに出て来ず、フランス語では確か「table(ターブル)」なので、「机」のことを「テーブル」と言ったら、そりゃもう鬼の首でも取ったかのように、ほれみたことか、○○さんは日本語が出来ない、とでも言わんばかりに笑われたのである。私は在仏時代、本を読むのが好きだったので、母の実家からせっせと(日本語の)本を送ってもらい、その年齢では必ずといっていいほど夢中になる偉人の伝記シリーズや世界名作全集などを読破していた。その効果あってか、国語に関してはほとんど遅れを取っていなかった(字はひどく下手だったが)。帰国して1年以内に、校内の読書感想文コンクールで銀賞も取ったほどだ(笑)。それでもである。

その2は、「日本人」は、『一般』と少し違うと、その原因を躍起になって探すまで安心できないということである。
だから、私が少し『一般』とは違うと、『○○さんは帰国子女だから』とすぐ 言われたわけである。何かにつけて。たぶん、私ぐらいズレている人は、日本で生まれ育った人にも結構多いと思うのだが、私はとにかく『帰国子女だから』と言われる。そこにはお互いの歩み寄りとか理解への努力といったものは全くなく、レッテルを貼られてそれ で「分類」されておしまい。やっぱり○○さんは違うのね、と。 まあ、一種の変わり者扱いだ。

私の帰国直後の「ヘンな日本人度」は日本での生活に馴れるにつれて少しずつ薄まり、それとともに帰国子女いじめもなくなったが、それ以降も私はさまざまな場面で常に「こんな言動をしたら日本人らしくないと思われてしまうのではないだろうか?」という自問を繰り返し、同化を試みようとしては失敗し、失敗しては同化を試みようとして来た。そこには常に、あの強烈に拒絶された経験を繰り返したくないという恐怖と、それでもいったん変わってしまった自分を元に戻そうとしても変えられないことに対するもどかしさが対立していた。

帰国子女いじめは、自分の中では、昔の、出来れば思い出したくない記憶の一つに過ぎず、もう済んだことと位置づけていたのだが、実は、その後もずっとこういう形で尾を引いてきたのである。いちいち自分の言動に対して、ひいては他人の言動に対しても「日本人としてこれはふさわしいのか?」と思ってしまう習性。そしてそれは、「違う」という事実はもはや変えることはできないのに、違っていると受け入れてもらえないから、自分を矯正しようともがくことまでして、自分が身を置いている社会に受け入れられたいという、長い間抱いてきた、切実な願いの表れでもあったのだ。

ボストンの日本人社会はそれに比べるとずいぶんと気楽ではあるのだが、入れ替わりが激しく、別れも多ければ新しい出会いも多い。そんな中で、私は、出会う人出会う人の「日本人らしさ」を勝手に査定しては、自分と比較して自分を疲労させてしまうのである(もちろん、基本的にはその人の性格や自分との相性が大事ではあるのだが)。ここまで来ると、全く笑うしかない。しかも、特にそれまで海外での生活の経験がなかったのに、私から見るといろいろな意味で「日本人らしくないな」と思える人に出会うと、この人は、どうして私のようにジレンマを抱えていないのだろうかと私は困惑してしまう。でも、今なら分かる。その人は、たまたまそういう性格だっただけなのだ。そして、私も、これまでの海外生活で多少肯定かつ強化(笑)された面はあるかもしれないが、もともと、モノはハッキリ言う方だし、感情はストレートに表す方だったのである。そして、それは海外生活の結果より両親の育て方の結果であると思う。それを、何かと「やっぱり帰国子女だからね」と理由付けされ変わり者扱いされて来たために、余計な葛藤を与えられることとなってしまったのだ。

今まではフランスでの生活そのものが後の自分の思考に大きな影響を与えたのかと思っていたのだが、そうではなかった。むしろ、帰国後、自分がその社会において主流ではないことによることから起こった摩擦と長い間の葛藤が自分の思考に大きな影響を与えたのである。

そう考えると、私が居心地が良いと思える友人や知人は、やはり同じような境遇の人が多い。夫(は友人や知人ではないが 笑)がまずその最たる人物である。アメリカの何だかんだといって白人優位社会の中で下に甘んじることも少なくないアフリカ系アメリカ人としてのアイデンティティ(時に 突然表面化してビックリさせられるのだが)はあっても、小学校5年生の時から、自分の育った黒人ばかりの町ではなく、隣町の 白人や ユダヤ系の多い町の学校に通ったせいか、いわゆるコテコテのブラックとは少し違う。その他にも、今、地元でお付 き合いのあるアメリカ人ママ友たちも、アーティストだったり、パートナーが外国人だったり、他州出身(つまり、地元志向の非常に強いボストンでは「よそ者」)だったり。昔働いていた花屋の面子もちょっと変り種(笑)が多かった。お母さん がトンガ人の子、ユダヤ系アメリカ人で両親の意向でしばらくイスラエルに住んでいた子、非常に保守的な南部出身の同性愛者でマサチューセッツ州法の下、結婚している人。

「主流」から外れている、あるいは一時期外れていたことからもたらされる思考には、経験して来たこと自体は違っても根底には共通のものがある。そしてそれは、もはや日本の方が合っているとかアメリカの方が合っているとか、単純に国境で仕切れるような二者択一の次元ではないのである。

おそらく、私が心地よいと思える「国」は、30年前に日本に帰国した時点ですでに消滅していたのだろう。それなのに、私はもうその、すでに存在しない国を、いつまでもいつまでも探し続けていたのだ。

日本で生まれ育ち、途中の数年間をヨーロッパで過ごし、ひょんなことから決してアメリカの主流ではないアフリカ系アメリカ人と出会って結婚し、ヒスパニック系移民の多い町で2人の子供を育て、週に1度、日本語学校に通わせている。そんなヤツ、アメリカでも「主流」ではない(笑)。でも、今のところ、私にとってはこれまでの人生で1、2を争う居心地の良い環境なのである。それでいいじゃないか。そしてそれはまた、時を経て変わる可能性は十分ある。その時は、潔く、次の環境へ自分の身を置けば良い。

とにかくもう、すでに存在しない国を、そして自分が認めてもらいたい社会を探し求める旅は、ここで止めよう。これが、人生のほとんどと言っても良いほど実に長い間、自分を苦しめてきたどっちつかずのアイデンティティに対してようやく出た一つの回答なのである。





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最終更新日  2014.10.15 12:11:10
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