第2章(3)
「だったらどうしてそんな目で見るのですか?僕は悪くない…」「近衛で…王を守るべき近衛の身でありながら主人である王に剣を向けるのが悪くないと?経緯はどうであれ…お前は国を裏切った逆賊になったのだ…」寂しく俯く父親の姿をリティールはまるで化け物を見るような顔を向けた。「人の心を捨てれば…よかったのですか、父様?友を殺され、街のみんなも殺されて…それでもみて見ぬふりを!?僕にはできっこない…」とても父親の発言だとは思えなかった。かつては威厳に満ち、すばらしかったはずなのに。 「人をさらい、化け物にしていたのはあの魔法使いであろう?だったらその魔法使いだけを殺せばお前は英雄になれた」「…英雄になど…」悔しそうにリティールは唇を噛み締めた。そのままリティールは部屋を出ていってしまった。屋敷から出ると兜を被り直し、武芸大会の選手控え室に戻った。途中、ライナディアに会ったが声をかわすことはなかった。武芸大会が始まる直前までリティールは剣のすぶりを止めなかった。すべてを忘れるようにがむしゃらに剣を振る。そして、昼の教会の鐘が鳴ると同時に武芸大会が始まった。リティールは難なく決勝まで進む。出場選手や見物客は騒然とした。兜を被り顔を隠した選手がいともたやすく決勝まで上り詰め、依然、疲れを見せない。『決勝戦!ライトコーナー!リズ・ルーズベルト!セント・ローズの仮面の騎士!レフトコーナー!ルーベンス・アムンセル!サルファン近衛隊長!』審判の掛け声で二人は闘技場の中央まで進み出た。(こいつ…ドンの…)兜のなかでしかめ面のリティール。「…お手柔らかに…」明らかに小馬鹿にした言い方でルーベンスは実際、目の前の少年を舐めきっていた。今まで勝ち続けたことさえ運がよかっただけだと思っていた。ドンのそばで剣の腕を研き、近衛隊長にまで上り詰めた彼は少し自分の力に溺れている節があったのは言うまでもない。『はじめ!!』審判の声が闘技場に響き渡ると同時にルーベンスが剣を抜き放ちリティールに切り掛かってきた。リティールは動かない。黙ったままルーベンスを睨み据えている。ルーベンスの剣がリティールを捕らえ切り付けた。(口ほどにもない…)ルーベンスはほくそ笑んだ。だが、ルーベンスの剣はリティールの体を切り付けることをできずに空を切った。さきほどまでいたところにリティールはいなかった。「な、なに!?」ルーベンスはリティールの姿を探そうと後ろを振り向いた瞬間、首筋に冷たいものが触れた。リティールの剣だった。何時の間に後ろに移動したのか、そして何時の間に剣を抜いたのか誰にもわからなかった。「終わりです」静かに言い放ち、審判に視線を投げた。『そ、それまで!!しょ、勝者リズ・ルーズベルト!!』審判の声が高らかに鳴り響いた。「…ライナディア…お前はリティールと一緒に行け」「え?」客席で見ていた村長が兜の少年を見つめながら言った。「この後、王が出てくるじゃろう」「ま、まさか…」ライナディアは村長の言いたいことがはっきりと伝わってきた。「そのまさかじゃ…やつはやりおるよ。だからライナディア、お前が止めるんじゃ」「しかし…」「ほっておけば殺されてしまう。無論、仇討ちなど出来ぬ間にな」さぁ行けと背中を叩かれライナディアは走り出した。人を押し退けて闘技場の入り口まで来る。「今は入れません」警備兵に阻止される。「緊急事態だ。リズに伝えたい」ライナディアは目の前の警備兵を睨み付ける。警備兵は緊急事態という言葉に一瞬、顔をしかめたがさほど同じずその場から動かない。「緊急事態?どういう事だ?」「…お前たちは知らなくていいことだっ」ライナディアは警備兵を殴って気絶させてしまった。「早まるな…リズ…」そして、目の前の扉をこじ開け、闘技場の中に入った。『勝利者にもう一度、盛大な拍手を!!そして、栄光あるリズ・ルーズベルトには陛下との対面を!!』審判の声でサマエル王が立ち上がった。