人間万事塞翁が馬
お父さんは子供の頃からことわざとか慣用句などを覚えるのが好きだった。子供の頃に買ってもらった学研マンガのことわざ辞典がバイブルだった。欄外のことわざまですべて覚えていた記憶がある。おかげで学校の授業では、出てくることわざを覚える必要など全くなく、とても楽だった。 その後ことわざのなかでも故事成語という物語付きのことわざが好きになり、いろいろな故事成語の物語を覚えた。矛盾とか漁夫の利など故事成語は面白い物語が多い。そんな中でもお父さんが好きな言葉が「人間万事塞翁が馬」という故事成語だ。 物語は、塞翁という老人の馬が逃げ、その馬が駿馬と一緒に戻り、その駿馬に乗った息子が怪我をし、怪我のせいで戦争に行かずに助かったという内容だ。不幸と思ったことが幸運に変わったり、幸運と思ったことが不幸に変わる物語である。 ことわざの意味としては、幸せも不幸も順繰りにやってくるとか、幸不幸は一時期の状態だけではわからないからあまり気にするなとかいろいろあるが、お父さんは、自分の人生と合わせて考えて、不幸と思ったことが幸運につながることが多々あるという意味でとらえている。 お父さんも50年以上生きているので、いろいろと不幸とか苦労とか負の出来事というのはそれなりに経験してきている。正直に言って、その時はひどく落ち込むし、とても辛い思いをしてきた。 ただし、その結果物事の見方が変わったり、精神的に強くなったり優しくなったりと、不幸や苦労は人間を成長させると理解できるようになった。 自分が成長したと自分で言うのはすこしおこがましいかもしれないが、幸せというのはあまり認識できないし、心の中に残らないが、不幸や苦労は結構記憶に残るものである。そしてそれによって、自分が変わったと認識できるものがいくつもある。 お父さんが、自分が大きく変わったと思っているのは、アメリカに留学して苦労したときだが、結婚から子育てなども苦労が多く、人間的に成長するというか、いろいろと変わったと実感している。 もちろん渦中にいるときは、なんでこんなにつらい目に合うのかと思うのだが、その不幸が過ぎ去った後には必ず良い形に変化して自分に有利になる環境や精神力、考え方などが残る。 自分の子供たちに、だから苦労をいっぱいした方がいいとはなかなか言えないのだが、子供たちが、学校などで悩んでいる姿を見ると、これでこの子はまた成長するのだなと思っている自分がいる。 不幸や苦労によって、心が折れてしまいダメになってしまう人も多く見てきたので、常に苦労するのが良いとは言えないのだが、乗り越えることを前提にして言えば、苦労は必ずその人の為に良い効果をもたらすと断言できる。 お父さんはこれからもいろいろと不幸に思うこともあるだろうし、苦労もするだろうと思う。それでも人間万事塞翁が馬だと思って頑張っていこうと思う。