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じゅびあの徒然日記

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2006年12月08日
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カテゴリ:お薬の話
今日は普段より、少しだけ専門的な話。読みにくかったらごめんなさい。

多分私は、平均的な精神科医に比べて、薬の処方量が少ない医者である。
ただし、精神病圏の患者さんで、もう長年、多剤大量療法(昔、主流だった)をやってきて、それで落ち着いている方に冒険的に減量を試みることは、あえてはしない。
効いている量まで出ていない薬や、どう考えても無意味と思われる薬、後から述べるが無駄に多い副作用止めを減らすにとどめる。

よく薬局に、「先生の処方は実に素直で綺麗な処方ですが、一度に日数を出すと調剤に時間がかかるのでやめてください」と言われる。
落ち着いている患者さんだと、4週間~6週間処方でやっている人も多いので、そうなってしまう。
真夏の暑いとき、真冬の寒いときなど、高齢の患者さんだとつい、間隔を目一杯空けてしまう。
もちろん、悪くなったときはいつでも来ていいと伝えてあるが、バスの乗り換えをして山間部から出てくる高齢の患者さんに、2~4週間おきに来い、とは言いたくない。
真冬ならインフルエンザも流行る。凍った道でこければ、そのまま寝たきりにもなろう。
普段は4週だが、過酷なシーズンは8週から12週、処方を渡している。

特に、私の睡眠薬の処方の少なさは、特筆ものかもしれない。
睡眠薬が少ない、いや睡眠薬を処方していない患者さんがほとんどだからこそ、2週間を超えて処方できるのだ。
(睡眠薬の大半は、保険上一度に2週間までしか処方できない。)

いつもいつもどんな薬でも処方量が少ない、というわけではない。
薬と言うのは、きちんと効く量まで出さないと、意味がない。

例えば初発または再発した統合失調症のケースでは、初期投与量から間もなく、かなり思い切った量(と、一部の人には見えるらしい)の薬を出す。
最初は多少フラフラになっても、眠り続けても、ゴハンがあまり食べられなくても、しっかりした量を効かせる。
不思議なことに、処方量を減らしていないのに1週間位すると、皆さんちゃんと起きてこられる。
しばらくその量を維持したら、今度は薬の整理を始める。
最初にどーんと鎮静をかけるために出したような薬を慎重に減らし、種類も整理。
精神病圏に睡眠薬やマイナートランキライザーを使うことは、基本的に意味がないので最低限に。
結果的に、そのほうが予後がよい。入院期間も短い。社会適応もよい。
いわゆる古典的な抗精神病薬であっても、きちんと使えば、ほとんど見た目には精神病と分からない、本当に普通に生活・仕事をされている外来患者さんがたくさんいる。
遠慮がちに遠慮がちに処方をし、それで症状が抑えきれないと、また薬を増やす、というような後手後手に回る治療をしているドクターは、どんどん薬の量と種類ばかり増えてしまって、それでいて症状がよくならない、という事態に陥る。
はっきり言ってしまうと、一度後手に回ると挽回はかなり難しい。
でもって、副作用の薬剤性パーキンソニズム(小刻み歩行や手の振るえなどが代表的症状)ばかりが目立ってしまい、副作用止めの薬もどんどん増える。
だが、実はこの副作用止めの薬自体が、抗精神病薬に相反する作用を持つわけだから、幻覚や妄想を誘発する。
副作用を怖れるのか時々副作用止めてんこ盛りの処方を見かける。
抗精神病薬の種類と量を考えても、どう考えても副作用止めが多くて、どちらをメインにのませているのか分からない、処方だ。
副作用止めが多ければ多いほどよい、安心、副作用止めには害がない、と勘違いしているんじゃないかと思えるほど。
またそういうドクターに限って、マイナートランキライザーの処方が多い。
副作用が少なくて使いやすいのかもしれないが、小手先の処方調整は薬の種類ばかり増やす素。

抗うつ薬も、基本的には、きちんとした量をのまないと、効かない。
また、以前にも書いたが効き目が現れるのには3週間ほどかかる。
本当にシンプルにうつ病なら、フルボキサミンは150mg/日3週続けてのんで初めてなんぼ、ミルナシプランは100mg/日3週続けてのんで初めてなんぼ、という薬だ。

パロキセチンだけは、ちょっと違う考え方をしている。
今をときめくパロキセチンは、病名によって40mgとか50mg/日まで保険適応になっている。
だが私は、パロキセチンは基本的に20mgで勝負する薬だと思っている。
20mgである程度効果が認められたが、もう一歩効果が欲しい、という時に初めて30mg使う。
20mgで全く効果がない時は見切りをつけるべきで、諦めずに40mgとか50mgとか使う薬ではないと思う。
このパロキセチンという薬は、とてもいい薬だと私も評価しているのだが、合う患者さんと合わない患者さんがはっきり分かれる。
大体、第一印象で分かるのだが、昨今内科医が1stチョイスで安易に処方しているケースが多い。
合わない人にのませると、衝動性が暴発するから、パロキセチンは専門家以外には難しい薬。
内科医からの紹介で、元はおとなしかった人が手をつけられなくて入院か、というケースは、たいてい紹介状を見なくても「パ●●●出てるでしょ」と言うと当たる。
パロキセチンによる自殺の誘発がマスコミでも話題になったが、何を今さら、と思った。
もともとそういう薬なのは判っていた。
売り込みに来る薬屋さんにも、パロキセチンは内科医でも安心して1stチョイスとして処方できる薬です、なんて売り方はしないほうがいい、相手を間違えずに使えばせっかくのいい薬なのに、売り方で評価を落とすことに繋がるよ、ということは言ってあげていた。
なのに、薬屋さんは煙たいと思ったのか、他のドクターのところにばかり売り込みに行くようになっていた。
「40mgまで使えるようになりました。それくらいで効果がよく出るのでぜひ試してください。」
「50mgまで使えるようになりましたので、しっかり使ってみてください。」
だから、その売り方が、ダメなんだって。

精神病圏の睡眠障害なら抗精神病薬で何とかすべき、うつ病圏の睡眠障害なら抗うつ薬で何とかすべき、睡眠薬は、一時しのぎにすぎない。
私はそういう考え方だから、睡眠薬の処方がいやでも少なくなる。

先日、ある紹介患者さんの処方を見て、私は気分が悪くなってしまった。
抗精神病薬が新薬である非定型抗精神病薬3種+古典的なものが2種。
抗うつ薬が、上記3兄弟一通り極量まで+1種。
マイナートランキライザーが、4種。それとほとんど化学的に同じ種類の睡眠薬が3種類。
副作用止めが、てんこ盛り。
何をしたいのか判らない処方だが、統合失調症の論文を数多く発表しているような先生だ。
思わず「本当に統合失調症だけなんですか?」と確認の電話をしたら、私のことをずいぶん失礼だと思われたようで、大変機嫌の悪い口調だった。
私が見ただけて気分が悪くなった処方を、服用している患者さんはもっと凄い。
外来で引き続き治療をしろと言うことだったが、とてもじゃないが一度たりともこんな処方を出すことはプライドが許さないし、生理的にも受け付けない。
患者さん本人はこれだけ薬をのんでいても完全に昼夜逆転生活をしていて、全く社会生活、家族との日常生活のない状況。
これは外来でなく、入院で薬を整理するよう勧めよう、と方針を決めたが、頭がクラクラ、吐き気がして、手足が冷たくなってきてしまい、なかなか診察にかかれなかった。
紹介状を見ただけで自律神経症状をきたしたのはコレが初めて。
まだまだ修行が足りませぬ。
この患者さんは、といえば抗うつ薬とマイナーを無事に全廃し、抗精神病薬を3種類まで絞ってピシッと使ったら、退院後もう少し時間がかかったが、昼間起きて家族と生活できるようになった。
論文の統計に、この患者さんも入っているんだろうなと思ったけど、統計をとるよりひとりひとりの患者さんに、もっと大事なことがあるような気がした。





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最終更新日  2006年12月08日 23時33分39秒
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