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じゅびあの徒然日記

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2007年01月28日
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カテゴリ:お薬の話
以前の日記で触れているが、私は患者さんの再入院率が低い主治医だろうと思う。
少なくとも、今の職場では一位二位だ。

入院はともかく、外来治療の場合、患者さんにお願いして薬を「のんで頂く」しかない。
自分でのむか、ご家族にのませてもらうかは別にして、私がついていって管理できるわけでないから、患者さんやご家族を信じるしかないし、逆に私を信じてもらうしかない。

患者さんがお薬をのまなくなってしまうのには「薬をのむのをサボってしまう怠薬」と、「服薬を何らかの理由で意図的に中止してしまう断薬」がある。
内容は違うが結果はどちらも同じ。

うつ病を治療してきてある程度まで来たところで、「よくなったのでどうしてもお薬を止めてみたい」とおっしゃる患者さんがあった。
私は「今中止すれば、まず間違いなく以前の状態に戻りますよ。私としてはとにかくのんでいただきたいし、中止すべきでないと思います」と説得を試みたが、ご本人の意思は固かった。
結局どうしてももうのまないという薬を処方するわけにもいかず、のまずに1ヶ月後来るだけ来ますという無意味な診察予約も受けず、「これだけご説明してどうしても服薬を中止するというのなら、自己責任ですよ。後で悪化したときに、先生がもっと強く止めてくれれば、というのだけは、無しにしてくださいね。調子が悪くなったら、再受診についてはお断りしませんから、それは遠慮なくいらしてください」と念を押して、お帰りいただいた。
どうなるかな、これでうまくいってしまえばそれはそれで患者さんの幸運だけれど、と内心思っていたが、1ヶ月経たず「やっぱり先生のおっしゃったとおり、ダメでした」といらっしゃった。

統合失調症の患者さんで、かなり激しい症状で入院されたが、落ち着いて外来通院になっていた女の子がいた。
およそ1年ほど経過したとき、怠薬をやってしまった。
入院中から、様々な症状を薬の副作用ではないかと訴え、薬が強すぎる、減らして欲しいと訴える子ではあった。
退院してからも、私が慎重に少しずつ薬を減らすのを、「もっと減らせないんですか」「最終的には、なくならないんですか」と待ちきれない様子が窺えた。
それでもバイトができるまでに回復してきていたのだが、それだけ調子がよいと、もう薬がなくてもやっていけそうな気がしてしまうようだ。
そして、ある朝1回薬をサボってみたら、普段よりシャキッとしていい、と気づいてしまう。
抗精神病薬は鎮静作用があるから、それなりに眠気も出る。
「あの先生がこんな薬を出すから、私は今まで思うように身体が動かなかったり、能力が発揮できなかったりしたのだ」と思ってしまう。
そこが、落とし穴。
その後はもう続けて薬をのむはずがない。
人間だから、忘れることはあってもいい。
1回のみ忘れたからと言って、即症状が再燃、ということはない。
だが意図して数日続ければ、別だ。
私は常々患者さん本人にも、ご家族にも「薬を止めたら、3日だからね」と伝えてきた。
その患者さんはまるっきり私の予言どおり、3日後に病状悪化。
慌てたご家族から電話がかかってきて、再入院。
本人も気づいて、3日後に慌てて薬を再開した痕跡がゴミ箱に残っていたが、症状が坂道を転げ落ちかけた時には、もう維持量の薬で追いつくはずがない。
診察に訪れた彼女はさぞかし私に怒られるだろうとおどおどし、涙さえこぼしていた。
怒りはしなかったが、「残念だったね。苦しくても薬の多いところから、やり直さないとね。私もせっかくあそこまで行ってたのに、と思うと残念でたまらないよ。」と彼女に告げた。
彼女は私が最初から診て再入院した数少ない患者さんの1人だが、相当懲りたらしく、退院後きちんと指示通り服薬してくれているし、薬を減らすのが遅いという不平も言わなくなった。

副作用が気になったから薬を止めた、という患者さんは確かに多い。
実際には副作用ではないのに、身体、あるいは病気が出すいろいろな症状を副作用と思ってしまうケースもある。
精神科の薬なんて後まで残るのでは、のんだら娘が後まで結婚できないんではないか、子どもを産めなくなるのではないかと真顔で訊いてくるお母さんは本当に多い。
のむのを中止すれば、身体からいずれ出ていってしまいますよ、出ていった後まで作用するということはありませんよ、という病院の薬ならみな当たり前の説明をこっちも真顔でしなければならない。
薬よりも、精神科の病気が残す爪あとのほうが、よほど大きく深いのに。

それでも、私は自分の患者さんたちに恵まれている。
他のドクターの患者さんたちと見比べると、圧倒的に指示を守ってくれる患者さんの率が高い。
恵まれているのも恵まれているが、副作用についての対応の仕方が、他の医師と違うらしいことが、少し分かった。

私は基本的に、患者さんに薬の副作用が出ているのを診ると、もしくは聞くと、それが重篤なものでない限り「ああ、最初に話したとおり、これはこの薬で出ているんだよ。予想できる範囲内だから、大丈夫。少しのみ続けると気にならなくなる人も多いし、よくなってきていずれ止めたり減らしたりすれば治まっていくよ。(例)」という方向性で説明をする。
軽い副作用なら「今は必要だから少し我慢してのめるかな」と勧めるし、「副作用だとは思うけれど、想定内だよ。ちゃんと私が分かって診ているから大丈夫だからね」さらに「あまり辛いようなら、副作用止めのお薬もあるよ。たくさん使うと病気を悪くしてしまうけど、少し使えば軽減できると思うよ」と話す。
「これは薬の副作用で、分かっていることだから、変な病気じゃないよ。心配しなくて大丈夫」という話し方。
全ての薬効のある薬には副作用がある。どっしり構えていればいい、慌てない。

「ああ、これは副作用だから、大変だ。すぐに替えましょう」とか「副作用止めを多く出しましょう」という方向には、すぐ話を持っていかない。
こういう方向で日頃話をしていると、何か気になる症状が出たときに患者さんがすぐ「副作用と思われる症状が出たのでその日から薬をのむのを止めて来ました」となってしまう。
医師の側も、都度薬剤を変更していたらすぐに処方できる薬物が無くなり、手詰まりになってしまう。

時々「精神科の薬である」ことに不安を持つご家族が、何か症状が出ると「薬のせいではないかしら」と患者さん自身の不安を煽ったり、服薬を止めさせてしまったりというケースも困る。
症状の強い時には、若干の副作用を覚悟しても、先回りして封じ込めなければならない時がある。
そのあたりも説明しているのだが、薬の副作用、と聞くと全て危険なものと考えてしまうようだ。
疾患を放置するほうが、よほど危険なのに。





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最終更新日  2007年01月28日 14時42分07秒
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