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カテゴリ:プシコ(精神疾患)な毎日
母のことはちょっと一息つけたけれど、ここのところ凹むことが多かった。
当直を止めたい、って話は前に書いたけれど、もう何度も「これはもう、(当直だけでなく)仕事続けていけない」と思うことがあった。 今に始まったことではないんだけれど、ことごとく、職場に裏切られているから。 そのたびに、「1年後には、今と何か状況が変わっているかもしれないから」と踏ん張ってきたんだけれど、状況は悪化するばかり。 入職時にした約束を状況が変わったからと平気で反古にし、一方で改善してほしいと要求したことについては、始めた時に決めたことだ、とオーナーの鶴の一声で潰す。 同じように感じている医師は私だけではないから、医局の中では密かに「学会の認定医(経験年数があるので自動的に指導医も)が取れるまであと1年だけ、ガマンすれば」と囁き合う声が聞こえてくる。 いろいろあって辞めた病院に、ケースレポート作成でカルテ閲覧のためだけに、もう一度足を踏み入れるのは、イヤだからね。 この病院が、今の医師充足率で迎えられる正月は、このままいけば、今度が最後。 次の年は半分になるから、これだけ業務の枠ばかり拡大してきた病院は即立ち行かなくなるはず。 私のブログも知っている誰かが読んでいるだろうけれど、あなたの病院のことよ。 気づいたら、よく考えたほうがいいね。 実は全国的に精神科医は足りていない。 今の勤務先は自分のところだけは十分、ちょっと辞めさせたいくらい余っている、と思っているようだし、自分のところだけは働きたい医者が次々に集まってくる、とでも錯覚しているようだ。 私たちは、どうしても辞めようと思えばいつでも次の病院に移れる、ということをどう考えてもお忘れなのだ。 しかも、今どこの大学も人材不足で、たかが民間病院の空いたポストを埋めてはくれない。 そうすると、誰かが辞めた分を残った医者が肩代わりすることになり、またその医者が「こんなに仕事が増えてイヤだ」と音を上げて辞める。 総合病院で内科医が一度に3人退職、とかいう話はよく聞くが、医者の退職は連鎖反応で起きる。 「ひどい病院だから」医者が辞めた、なんて大学内ですぐに話が広まるから、その病院はその後何年も、ほとぼりが冷めるまで誰も来てくれないのをガマンしなくてはいけなくなるのだ。 私はこれまで経験年数が足りても、意図的に精神保健指定医の資格を取らずに来た。 こういう生活をしていると、急に措置鑑定で院外に呼ばれて、お迎え時間に戻れない、というのはもうどうしようもなく、困る。 子どもが少し大きくなるまでは、と思っていたのだ。 しかし、少し前からこっそり考えを変えた。 今の職場のために取ろうと思っているのではない。 自分がどうにも辞めなければいけなくなったとき、どこにでも行けるように、取るのだ。 私の周りの先生たちが「じゅびあ先生、こんな事態だから、もう指定医も取ったほうがいい!先生ならすぐ取れちゃうよ。それさえ持ってれば、いつでも辞められる、どこでも行けるから」と強く勧めてくれて、突然思い立った。 実際辞めないまでも、その気になればいつでも辞められると思ったほうが私の精神衛生上いいし、今まで断固指定医を取らなかった私が突然指定医を取ったら、辞める準備っぽくて病院も多少慌てるかも(いや、全然慌てないかも)。 指定医を取るときに必要な費用(10万円)は、勤務先が負担することが多いが、私は指定医講習会の出張申請をするつもりはないし、費用も自腹で切るつもり。 どうせ私の出張申請なんて通さないだろうし、何より、今の職場の増収のために取る指定医ではない。 あと1年、指定医を取るためだけにいるのだ、と思えば踏みとどまれる。 そんなことを思いながら、外来と病棟の間を走り回っていたこの1週間。 外来をやりながらも毎日、ああ、まだこっちの病棟とあっちの病棟のルーティン診察が丸残りだ、ああどうしよう、今週はやれるかしら、と気が焦ってばかりだった。 ある患者さんは誕生日を迎えた。 「じゅびあ先生、今年は家族でケーキを囲んで誕生日を祝ったんです。こんな誕生日は何年ぶりだったか。去年までの私なら考えもしなかった。先生のお蔭で、今普通に生活することができます。ありがとうございます。」 ...あかん、そんなこと言われたら医者冥利に尽きちゃうじゃないの。 別の外来患者さんがやってきて言った。 「じゅびあ先生、大学に合格したよぉ!4月から下宿だよーん。お母さんが行き来してくれるので、普段は状態を報告して薬を取りに来ればいいよね?自分は最低どれくらい来ればいい?病棟にも報告に行っちゃおうかな。いい?」 緊急入院した時は、ほとんど意味不明のことを喚いてウロウロ歩き回っていた患者さんだった。 病棟に挨拶に行くそうだから、入れてあげてね、と上へ電話しながら、ああ、これがあるから私はこの仕事をしているんだったな、と思い出した。 「仕事復帰しても、またあそこじゃうつになっちゃうよ。今の仕事イヤだから、復帰するくらいなら辞めようと思ってさ」と言う患者さん。 「仕事って、いろいろあるよねー。職場なんてイヤなことばっかりでしょっちゅう辞めたくなるのが普通だよねー。私だってこんな顔(笑顔)して仕事しているけれど、辞めたいと思うことだらけよ」と思わず本音が出る私。 「じゅびあ先生、先生が辞めたら僕、困ってしまいます。この先どうすればいいんですか。分かりました。僕も考え直しますから、先生絶対辞めたらダメですよ」 ...うまいこと退職思いとどまってくれた。 遠いところから来ていた患者さんで、それまで全く治療らしい治療を受けてこず、私が初めて治療に乗せたと言っていい患者さん。 入院中はものすごく大変だった人。 身体を診察しようとしただけで「ベラベラ喋ってばかりいやがって。触るな死ねこのクソ女!」と払いのけられたっけ。 そのうちに「先生はいつも、笑っているのね」と言われたな。 とうとう通院がきついので近くの病院に変わると言う(それが普通だから、わざわざここまで来ていたことそのものが、病気だったとも言える)。 「私は病院を替わるけど、ここまで来たのはじゅびあ先生のお蔭です。もっとよくなって、必ず立派になって、じゅびあ先生に挨拶に来ます。」 握手をしようと手を差し出し、笑顔。 ああ、この人が私にこんなことを言えるようになったんだ。 連日昼休み15分で頑張っても、外来が終わってからしか病棟診察の時間が取れなくて、その日も夕方になってからある病棟へ行った。 そんな時間なのに、慢性期統合失調症の患者さんたちはニコニコしながら集まってくれた。 「ごめんね、こんな時間になっちゃって。もう、くつろいでいたかな。」 患者さんを診察室に招き入れながら、何とか1時間で一気にやらなきゃ、ばかり考えていた。 いつもトワレの香りを褒めてくれる患者さんが「いい匂いだね」とこれまたいつもと同じようなことを言いながら、入ってきた。 その患者さんが突然、言った。 「僕はね、じゅびあ先生と話すといつも凄くスッキリする。ゲロ吐いた後みたいにさ。あっ、例えが悪くてゴメンよ。じゅびあ先生は、いつも僕の話を何でも聞いてくれるでしょ。だから、みんな吐き出せてスッキリするんだよ。」 「アタシは洗面器かいな」と言い返しながら、ずっと殺伐とした気持ちで仕事をしていたから、涙が出てきてしまった。 じわっと来たけど、何とかこぼさずにこらえた。目が潤んだのがバレたかな? 別の患者さんが入ってきた。 「落ち着かなかったってまた(看護師が)書いてある?」 「でも私が診察に来ると、いつも落ち着いているよね」 「そうだよ。診察のある日は、いつだって調子いい。じゅびあ先生の診察は、凄く楽しみ。」 ああ、また泣かされてしまった。お蔭で1時間で終わるなんて到底無理だった(笑)。 毎週診察している長期入院の患者さんたち。少しの変化があると、私には見て取れる。 一方で、毎週会っているから、患者さんたちにも私のことが分かってしまう。 「先生今日は顔色いいね」「先生疲れているみたい」「先生風邪ひいたの?大丈夫?」 なるべくいつも同じように接しようとしているつもりなのだが、慢性期のシゾ、欠陥状態と言われている患者さんたちが、こんなことをちゃんと気づいて、言えるのだとびっくりさせられる。 まさか、私が辞めることも考えているって、どことなく感じちゃったんだろうか。 「外来でじゅびあ先生の診察を待っていると、暗い顔して入っていった患者さんが、顔を上げて、明るい顔になって出てくるのが分かるんですよ。みんな先生の元気をもらいに来てるんですね。そりゃあ私だって先生みたいな先生ならかかりたいくらい。精神科の先生ってもっと気難しくて、怖いかと思ってたんですよ」と言ってくれたある患者さんの娘さん。 いつも私の患者さんはいい患者さんばかりだな、私は恵まれているな、と思ってきた。 偽善でも美辞麗句でもなく、本当は私が患者さんからもらう元気のほうが、多いのかもしれないね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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