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カテゴリ:プシコ(精神疾患)な毎日
大量服薬の患者さんを、仕事柄よく診させて頂く。
原則、大量服薬をしたから、即入院、という考え方はしない。 身体管理は精神科の病院ではできないから、総合病院の救急などで、身体管理が終わって危機を脱すれば、帰宅して頂いていい、と説明している。 時々、総合病院の身体科の先生が、「身体的には問題ないが、精神科的ケアが必要だから、処置後にそちらで入院受け入れをお願いしたい」と一方的に依頼してくることがある。 「身体的に問題ないなら、帰っていただいてよろしいと思います」と言うと、中には噛みついてくる先生もある。 「帰してまた繰り返したら、誰が責任を取るんですか!?」 私はいつも、こう答えている。 「それは、もはやご本人の責任です。きちんと目を覚ましてから、ご自身の意思で、診療時間内に外来受診されるのでしたら、いつでもいらしてくださいとお伝えください。」 「分かりました!」と電話を叩き切られた、あの日の真夜中。 精神科の入院を、と投げてくる身体科の先生に、逆に尋ねたいのだが、精神科へ入院すると、本人が自分の意思で「自殺企図」をするのを止められると思っているんだろうか。 彼、あるいは彼女の意思そのものを、精神科医には変える力があると思うのだろうか。 止められなかったら、精神科医の責任だと、言うつもりだろうか。 そういった行為をご本人が絶対しなくなるまで入院させるということが、誰に出来ると言うのだろう。 ぽっと出の精神科医がちょっと説得したくらいで、そういう行為を止められる人になら、家族の説得のほうがよほど有効だと思う。 ...説明を加えておくけれど、これはいわゆる狭義の内因性うつ病や、統合失調症の方の自殺企図とは別の話。 「何だか分からないうちにやってしまった」とか、「飛び降りろという声が聞こえたのでやってしまった」というのではなく、「××が嫌だったので、眠りたかった」「交際相手と喧嘩したので死んでやろうと思った」「とにかく今の状態から逃げたかったので薬をのんだ」など、自分のはっきりとした意思で、意識もあって、行なった場合だから、混同しないで頂きたい。 実際には、病棟内であろうと、自殺企図や自傷行為は起こりうる。 特に最近の新しいタイプの病棟はプライバシーに配慮されているから、死角も多い。 職員の目を盗んで、何かを持ち込む、自分を傷つけるチャンスはいくらでもある。 本当にやる気になると、刃物でない意外な日用品、病棟の中に普通にあるもので、リストカットはやれる(真似をする人がいては困るので、具体的に何でやれるかは、ここで挙げない)。 それでもなお、入院をもって、力づくで自傷行為を止めようというのなら、24時間監視モニターのついた、保護室ででも過ごしていただくしかない。 それですらも、100%防止はありえない。 警備会社の入った金庫のように、24時間体制で1秒たりとも目を離さず誰かがその人のモニターを見張っているわけではないのだから。 一応、入院中は、自傷行為、自殺企図を止められた、としよう。 そうだとしても、退院すればすぐ翌日、いやその日のうちにも、やれるチャンスはある。 退院した当日の深夜、時間外に「またやったので入院させてください」と連れてこられる患者さんが、どれだけいるか。 中には、主治医が退院の話を出した途端、院内で自傷行為をしてスタッフに傷を見せ「私はこんなことをしてしまいました。まだこんな状態なのに、退院を決めるんですか」とおっしゃった患者さんもある。 その方には、絆創膏だけ貼って退院して、院外の外科で処置を受けて帰宅していただいた。 「ここは、精神科の病院だから、きれいに縫うことは出来ないよ。ここでそういうことをしても、その治療は出来ないんだよ」と言って。 こういった行為は、本人が、自分で、「絶対止めよう」「このままではいけない」「これを止めるために、どんな努力でもしよう」「そのためのアドバイスなら、どんなに厳しくても、聞いてやってみよう」と思わない限り、止めることはできない。 「入院すれば止めてもらえる」「精神科医に止めてもらいたい」という姿勢でいるうちは、治療にならない。 「アンタ精神科医だろう。それを止めるのが仕事じゃないのか」と怒鳴った患者さんもあったが、「止めるのはあなた自身しか、ありませんよ」と話して帰っていただいた。 残念だけれど、それはまだ治療の機が熟していない、ということ。 こういった治療は厳しいから、ご本人が自分でやる気にならないと、まず続かない。 身体科からの入院依頼をそのまま受けない理由が何となく分かってもらえただろうか。 もし大量服薬したご本人がしっかり目を覚まして、自分の意思で来院して、「何としても止めたいんです」とおっしゃるのなら、私は自分に提供できるサービスを提示する。 だが、本人はまだ眠ったままで、家族が入院させたいといったから入れた、他の病院からの依頼だったから入院させた、ではほとんどの場合、治療としては失敗してしまう。 入院治療がうまくいかなかったとしても、決めたのが本人でなければ、結局それは「こんなところに入院させて私を見捨てた家族のせい」「私はこんなところに入院するなんて言っていないし、望んだこともない」ということになる。 入院環境が居心地がよければいいで、今度は帰りたくなくなってしまう。 「家にいるのは嫌」「職場に戻るのが嫌」「育児をするのが嫌」...で、入院したいがために自傷行為や自殺企図を繰り返し始め、思い通り入院することに成功してしまい、悪循環に陥った患者さんを救い出すことは、ますます難しい。 だから入院は厳しく、決して居心地のいいものであってはならない一面がある。 一日も早く退院したい、それが患者さん当たり前の感情であり、病院は一日も長く入院していたいところであってはならないのだ。 それでも現実に大量服薬して意識朦朧としている患者さんが紹介され、あるいは救急車で来院されてしまうことがある。 身体的には問題ないという状態ではあっても、家族は当然こんな状態では連れて帰れない、とても家に置けないから、入院させて欲しいとおっしゃる。 こんな時に、どうするか。それはまた次の機会に。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年06月18日 23時50分12秒
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