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カテゴリ:カラダの病気
温泉から帰った私は、その日のうちに土産のカステラを携えて姉の家を訪ねた。
インターホンを押すと、義兄が出てきて、「体調不良で寝ている」と言う。 寝ている時は遠慮して帰るのが慣例となっているので、カステラを置いて帰ろうとすると「ちょっとじゅびあくん、医者でしょ。とにかく上がって診てやってよ」と言われた。 姉は部屋を真っ暗に、プレーンシェード(折りたたんで巻き上がる式のカーテン)からうっすら漏れる光さえもダンボールやらクッションで塞いで、寝ていた。 「ちょっと、イヤだろうけど、電気つけるわよ」とスイッチを押した。 姉は起きて座ったものの、顔色は確かに悪い。 朝から、猛烈な腹痛に襲われていると言う。 最初は左下腹部が痛んだが、だんだん痛みの範囲は広がってきた。 朝、すぐに救急体制を敷く近所の総合病院(一応地元では一流とされる)に出かけた。 只事ではない痛みだったので、入院も覚悟して準備して行ったそうだ。 だが、血液検査の結果に大して異常は無く、ロキソニンという痛み止めを出されて、帰された。 帰宅してロキソニンをのんだが、全く効かない。 痛みはますますひどくなり、水分を少し摂るとすぐに嘔吐してしまう状況で、何も口に出来ない。 やむをえず昼過ぎ、もう一度同じ病院にかかった。 血液を再検査し、検尿もし、腹部X線写真、CTまでやったが、原因が判らないと言われた。 血尿は出ていたが細菌は見られず、他の所見には特に目ぼしいものもないので、帰宅してよい、と今度はボルタレンというもう少し強い痛み止めを出された。 ボルタレンを使ってしまったので次は6時間以上空けなくてはならないが、脂汗が出るような痛みがひかないと姉。 石の可能性もある、と言われたけれど、腰を叩いて痛みが響く所見(CVA tenderness)が見られないし、画像上もはっきり石は写らなかった。 だが話を聞いて、私は「まず間違いなく石だろう」と思った。 尿路結石は場所によって、石の種類によって、レントゲンで見逃されることはいくらでもある。 そこへ、ロキソニンもボルタレンも無効な、脂汗が出るほど激しい痛み。 そして、無菌性の血尿。他の所見は乏しく、炎症も強くなく、熱も微熱程度。 「それはまず、石だと私は思うけど。明日泌尿器外来やっているかな?月水金外来ってところ、多いよね」 「石なら水を飲まなきゃいけないけど、吐いちゃって全然飲めないのよ」と姉。 結石の疝痛発作は激しい。きちんと痛みを止めて、点滴のひとつもしてくれればいいのに。 夜11時頃、電話が鳴った。もう痛くてどうにもならないと義兄から。 その前に、違う病院にかかり直す相談もしていたが、かかった病院に検査データのコピーをもらえるか、と尋ねたら「検体検査についても原本は渡せないし、コピーも簡単に渡せない。手続きに2~3日かかる」という返事。 私はいつも患者さんが希望すれば、その場で血液検査のコピーくらい渡しているぞ。 なんてタカピー! 「今夜の二次救急は別の病院だから、救急車を呼んで運んでもらいなよ。今日どこにかかったってのは内緒にして。尿路結石の痛みなら、救急車呼んでも許されるって。救急車、近所だけサイレン止めて来てくれって頼んでもこの頃してくれないから、ご近所を考えるとこれ以上遅くなる前に呼んだ方がいいよ。」と伝える。 だが姉と義兄はさすがに救急車を呼ぶことには躊躇したらしい。 その頃、姉の高校時代の同級生で、内科開業医をしている先生に連絡がついた。 その先生のご主人が、2回かかって帰された病院で●●科をやっている。 「そんな対応はおかしい」と姉の同級生の先生がすぐにおっしゃってくれ、ご主人を通して当直担当医に直接連絡が渡った。 それから同日3度目の受診をしたら、注射を打たれてすぐに痛みは治まり、点滴もされ、翌日外来のない泌尿器科へ引き継いでくれることになったという。 ...なんて対応の違い!! そんなことでは、一般の患者さんは(うちも十分、一般です...子どもの喘息発作で精神科医ごときが何を意見する、と同じ病院で当直医に怒鳴られたことがあります...)、どうしてらいいのだ。 翌日泌尿器科医の診察を受けたところ、尿管のもう膀胱に近いところに直径3ミリの石があることが判明。 腰を叩く診察も、左と右の響き方が違う、とはっきり分かったそうだ。 というのも、前日の当直医は、片側しか叩かなかったそうだから。 姉は膀胱、尿管と腫れてしまい、少し熱も上がってきて、結局抗生剤と輸液のために入院継続。 今日昼間、喜びのメールが勤務中の私のところに届いた。 「すごい下腹部が重くて、トイレが近くなって、どうしたのかと思ったら、出たよー!石が出た。感動しちゃった。」 明日は、退院できるのかな? 尿路結石の疝痛発作なんて、プライマリの基本。 泌尿器科外来受診に先送るとしても、ちゃんと痛みくらいとって帰してくれなきゃ、困る。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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