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カテゴリ:プシコ(精神疾患)な毎日
新しい病院に赴任して、1ヶ月。
システムや、細かい病棟ルールの相違点など、戸惑うことも多く、気疲れもあった。 前の病院よりも、PCを利用することが増えたのも、最初は訳が分からなくて、疲れた(一度慣れてしまえば、速いことは分かる。いずれ紙には戻れなくなるだろう)。 PCとにらめっこして止まっていると、長い付き合いの外来患者さんたちに「じゅびあ先生、頑張ってください」と励まされた(笑)。 前の病院の外来に残ることを選択した患者さんのうち、何人かから「やはりじゅびあ先生にかかりたいのだが、どうしたらいいか」と問い合わせもあった。 秋から冬にかけて毎年調子を崩す患者さんが、私を探し訪ねて来てくださったりもした(前の病院の受付嬢が、こっそり教えてくれたそうである)。 新天地は、残念ながらちょっとばかり、病棟が古い。 クリニックからの入院依頼を引き受けた初発の統合失調症の患者さんを、本人の同意のもとに入院させたのだが、「主治医の説明が不十分だった。本人は納得などしていなかったはずだ」と遠方から来た両親に連れ帰られたのは、さすがに凹んだ。 入院して3日め、私が出勤していない日に突然、私とただの一度も面談することも電話で話をすることもなく、である。 代わりに対応してくださった先生には大変迷惑をかけたのだが、翌日こう言っていた。 「もともとは今日主治医が来るから面談してからという話だったのですが、両親がどうしても今すぐ退院させるって。先生、一昨日も診察しているでしょう?なのに、入院後一度も診察がないとか言うんです。長い記事がありますから診察しているはずですよ、って言ったのですが、両親は『あなたたちが言っているのははず、でしょう。本人が診察がないと言っているんだから、そっちが正しいに決まっている』って。実家近くの○●大学を受診させると言うんです。個室に中から鍵がかからない、他の患者が入ってきたらどうするんだ、何かあってからでは遅い、主治医から病室の安全装置に関する説明がなかったとか、無茶苦茶言うんですよ。主治医の意思に反する退院だから、家族ですべての責任を持つよう、当院では一切責任がとれないと説明しました。ああいう人には、二度とうちにはかかってもらわないほうがいいです。」 病棟の看護師たちも、「夫もはなから病室の鍵が中からかからないと何度も言ってきて、おかしかった。やってきた両親も、いかにもハイソな感じで気取っていた」と口々に言った。 家族が無茶を言ったのは確かだが、私はショックだったのだ。 患者さん本人は、間違いなく治療の必要な人だった。 初発の統合失調症をきちんと診断できる精神科医は少なくなっているし、処方の腕も落差が大きい。 実際入院して2日めで、症状はグッとコントロールされ、本人はとても落ち着いていた。 ずっと眠れなかった人をぐっすり眠らせることに成功し、異常体験もぴたりと止まっていた。 さあ、ここから本格的に処方調整に入ろう、うまくすれば数週間から1ヶ月で退院させられるぞ、と思っていたところだった。 ハイソな感じで気取っていた、というが、それだけハイソでブルジョアな家庭なら、入院費の滞納もなかろうし、退院を決めればすぐに本人を連れて帰ってくれるだろう。 民間病院にとっては、見ようによっては上顧客のはず。 他の患者さんと差をつけるようなVIP待遇は不要だが、顧客として大事にしなければならない(私がハイソな患者さんを生理的に好きか、というとまた別の問題...)。 「病室に内側から鍵がかからないのでは安心して妻を預けられない」と言ってきた夫のことを、職員がおかしいと決め付けたのも、一般的な感覚から外れていると言わざるを得ない。 前日まで、普通に鍵のかかる自宅で生活してきた人たちなのだ。 落ち着いてきているとはいえ病棟の中を硬い表情で歩いている他の患者さんたちと、前日まで自分と暮らしていた妻(実際には治療を開始していない分、彼女の方が病状は重いのだが)とは次元が違うように夫が思ったとしても、無理はない。 病棟の中を歩いている得体のしれない精神病の患者さんたちが、一般常識を理解して、あるいは職員の注意を守って他の患者さんの部屋に入らないなどという保証がどこにあるのか、と御主人は感じたに違いない。 負け惜しみではないが、「主治医の説明が不十分」と言われたのも、こんなところに一日たりとも置いておけないという家族の思いから勢いで出たものだろう。 ここを読んでいる人たちならわかるだろうが、平均的な精神科医の患者説明に比べれば私の説明はかなり強迫的にくどくて長い(笑)。 このケースでも、入院期間の見通し、診断の見通し、入院して当面の治療内容とその後の展望について、かなり詳しくご本人と御主人に説明し、質問事項にすべて答えている。 本人に入院後一度も診察がないと言われてしまったが、薬でしっかり鎮静をかけていたから、ぼーっとして時間感覚もなく、前日に診察を受けた、という記憶が曖昧だったとしても不思議はない。 看護記録によれば、退院してしまう日の朝も「ここへ来てからぐっすり眠れ、ずいぶん気分も落ち着きました」と看護師にちゃんと話していたのだから。 自信があるので、いないところでけちょんけちょんに言われたことに、腹も立たなかった。 ただただ、残念。 自意識過剰かもしれないが、あの患者さんは、どうしても私が治療しなければならない人だった。 前の病院だったら、医療の内容はともかく、病棟が新しいというだけでそういうことは言われなかっただろう。 そういうアメニティ面で、治療内容まで判断されてしまうことを実感して辛い。 病院そのものから、治療そのものから患者さんが逃げてしまうとすれば、初発の統合失調症はまず何がなんでも外来で踏ん張る、というやり方に方針変更しなければならない。 服薬に抵抗が大きいことも多いので、まず最初の治療導入は入院で、というのが理想ではあるのだが。 普段は自分がどこの大学を出ているかなどということも意識しないが(この間も、入院患者さんに卒業大学を尋ねられたので「大馬鹿大学」と答えておいた)、ぱっと出の患者さんの家族が「どうして○●大学でなくてこんなところへ」などとブランド志向なことを言い出すと「あの...私も一応☆★大学を出てそこから来ているんですけど、それではご不満でしょうか?」と言いたくなる。 結局言わないんだけどね。 前の病院からついてきてくれた患者さんたちは、よく分かっている。 治療は器ではなく、主治医の行う中身が大事だって。 ...だから安心して診療を行える。 新天地で初めてとった新規の入院患者さんにそういう形で逃げられてしまって、やり方を大きく変更しなければならないとすると...今後がちょっと不安になってきた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年10月27日 20時51分31秒
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