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じゅびあの徒然日記

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2008年04月04日
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ある男性の先生のことを女性看護師たちが言っていた。
「T先生は、患者さんが暴れているといつも一番後ろに下がって、『あなたたちやって』なんですよ。男性の応援を頼むにしても、一応先生だって、男手じゃないですか...。私たちだって、危険なのは同じなのに」

私は、どちらかというと、そういう時に一番前に出なきゃいけないと思うタイプ。
医師というのは一応医療チームの中で指示を出す立場にいる人間であって、自分はいつも安全な所にいて、他人にやれ、と言っても周囲は動いてくれなくて当たり前、と思っている。
忘れている人のためにいっときますが私は女性ですよ~。

先日も、当直をしていたら、ある男性患者さんが、女性看護師に向かって尖った鉛筆を振りかざしている、怖くてたまらないと泣きそうな声でコールがあった。
当直職員が女性のみの病棟で、私が行ったら誰も男性職員がいなくて、「どうして同時に他の男性職員のいる病棟にコールしてないんだよ(泣)」と思ってしまった。
私の方が看護師より強いってわけでもないぞ。
だが患者さんの方は、医者にコールをされた時点でマズイと思ったのか、自室に戻ってしまっていた。
わざわざ寝た子を起こすこともないので、しばらく詰所で待っていると、再び怒声がし始めた。
当直看護長にまずコールし、男手を集めてもらってから、病室に向かった。

患者さんは意味不明のことを叫んで興奮し、それでも医者と見ると「自分は悪くない」「他の患者の誰々が悪い」というようなことを言って、どうにか私を去らせようとした。
後ろ手には、問題の鉛筆。
「もう、休む時間です。今からは鉛筆は要らないでしょうから、お預かりしますね。」
患者さんは鉛筆を反対の手に持ち替えて、何も持っていないとでも言うように、手を前に出した。
「両手を出してください。そんなものを振り回しては危ないですし、他の患者さんも休めません。」
患者さんに鉛筆を渡すよう促し、ぐいと前に進み、右手を広げて差し出した。
...このままグサッとやられるなら、利き手でない左手の方がよかったな、と一瞬思った。
患者さんは私の掌に鉛筆を突き立てるかと思ったが、競馬新聞を眺めているおっちゃんのように鉛筆を耳にはさんで両手を出した。
そうかと思うと突然自分のベッドの方へ走り出し、寝具の下に鉛筆を隠し、何故か私の手にはノートを渡した(掌に触れたのが鉛筆の先でなくて、本当によかった)。
一瞬目を閉じた私の頭の中には、手からだらだら出血するイメージが完全に浮かんでいた。
その隙に複数の職員が総出で取り押さえ、鉛筆を取り上げ、患者さんは神輿のように担がれ、朝主治医が来るまで保護室へ隔離(もちろん、私の指示で)。
私はその時に思いっきり足を踏まれたが、踏んだのが患者さんだったか職員だったかは分からない。

この間は医療保護入院時に、入院に納得しない患者さんが私の受け取った書類に飛びかかって引きちぎり、書類をかばおうとした私は左手首の捻挫と左中指のつき指を受傷。
保護者の親御さんはぼーっと見てただけ...。
いちいち怪我をしたことは言わなかったが、数日はキーボードを片手で叩く羽目になった。

認知症のおばあちゃんに、突然げんこつを振り上げられ、その腕を握りしめたら握った手に噛みつこうとされて、両手でおばあちゃんの腕を引っ張ったまま「誰か来てー」と叫んだことも。
その時蹴られ続けた脛の皮下出血は消えるのに3週間かかった。
火事場の馬鹿力ってやつだ。
1週間後には薬の効いたおばあちゃん、ニコニコしてたけど...。

自分の患者さんが突然不穏になって指定医診察を頼んだ時のこと。
詰所で待っていると、指定医が診察室からすっ飛んで出てきた。
後ろからはまるでボールのように患者さんがコブシを振り上げて飛び出してきた。
想像以上に不穏だったのだ。
詰所には女性職員しかいなくて、みな遠巻き。
患者さんの注意は、男性の指定医だけに向いていて、すぐ横にいる主治医の私は目に入っていなかったようだった。
私は彼の左手に両手で飛びつき「ダメだって!」と叫んだ。
まさか、女性の主治医に、自分が取り押さえられるとは思ってなかったらしい。
ひるんだ彼に指定医の先生も飛びかかり、二人がかりで体重をかけ床に抑え込んだ。
「男性職員呼んで!早くっ!」
指定医の先生と二人、渾身の力と体重で体格のいい男性患者さんを押さえつけて応援を待った。
あの時彼に引っかかれた指定医の先生は、傷がなかなか治らないなー、と思っていたら、1週間後に化膿していたそうだ。
彼は、風呂が嫌いで爪がばっちかったのだった。

診察室で仕事をしていたら、詰所のほうで何かしら音がした。
詰所に職員は誰もいない。
どうも施錠し忘れたドアから、患者さんが侵入したらしく、用意した点滴台などを蹴倒していた。
いや、彼はその向こうにあるちり紙が欲しかっただけなのだけど(患者さんは、往々にしてちり紙が好きだ。ものすごく貯めている人、服の下にぎっしり詰めている人がいる。トイレットペーパーをホルダーにつけておくと、持ち去られたり、トイレに詰められたりしてしまうので、必要時に詰所でちり紙を渡して使ってもらっている病棟は多い。ちり紙は、彼にとって財産みたいなものなのだ)。
見回しても、見える範囲に職員がいない。叫んでみたが、誰も反応なし。
被害が広がり続けるのをほっとくわけにもいかず、「ダメだってー」と叫びながら仕方なく、私一人で彼を後ろから羽交い締めにして抱きかかえた。
たまたまワイヤーの当たる場所を蚊に刺されており、その日はノーブラだった(ノーブラ出勤は後にも先にもこの日だけだ)。
「ちっ、スペシャルサービスしちまってるよ。でも、ちり紙、ちり紙...としか言わない彼がそんなことに気づくことは永遠にないだろうな」と思いながら「誰かあ~!」と叫び続けていると、廊下の向こうから気づいた主治医の先生と看護師が走ってきてくれた。

精神科医に必要なものは、1に腕力、2に体重、3、4がなくて、5に勇気、かもしれません。
怖くないわけではないんです。
怖がっていることが患者さんに伝わると、ますますやられるので、虚勢張ってます。
でも、重症の入院患者さんより、初診の外来患者さんの方が、何を持っているか、何が起こるか分からないので怖いんです。
どこの診察室にも、非常ボタンがあります。
たとえ殴られても、刺されても、即死さえしなければ、助けは呼べる、一発だけ死なずに、気を失わずに耐えれば、まあ何とかなるだろう、といつも自分に言い聞かせて、やってます。





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最終更新日  2008年04月04日 21時58分53秒
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