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カテゴリ:認知症
任意後見という言葉を聞いたことがあるだろうか。
簡単に言うと微妙な違いはあるが、昔の禁治産制度の禁治産に当たるのが後見、準禁治産に当たるのが保佐である。 禁治産という言葉が、いかにも「本人に財産を治める権利がない」という意味合いなのに対し、今の任意後見制度は、後見や保佐をしてくれる人を自ら選んで、必要な時に援助してもらう、あくまで本人のための制度という意味合いになっている。 例えば、身寄りのない認知症の高齢者が施設に入所する場合、弁護士や司法書士が後見人や保佐人になっていれば、施設側は安心して引き受けることができるし、一方で小遣いや入居費用と称して本人の預金などを施設がブラックボックスの中で管理してしまうということを防ぐことができる。 精神科の病院も、昔は患者さんの通帳そのものを預かっていることがよくあったが、今これをやっていると監査や機能評価で引っ掛かる。 この手続きをしたい、とやってくる(多くは本人ではなく)家族が増えてきた。 例えば不動産の処分ができない、税金の滞納や借金があるようだが預金管理ができない、などの事態に直面して、来院することが多いのだが。 ...当然のことながら、これらの手続きは簡単ではない。 まず、本人が精神病や認知症により、現実検討能力が著しく低下しているか意思の疎通そのものが困難で、日用品の買い物もできない(後見)、あるいは日用品は買ってもいいが不動産や車などの大物売買は不可(保佐)ということを判断するのだが、これらは1回の診察では到底無理。 初診の場で、確かにそのような状態であっても、治療を開始したらよくなる部分があるかもしれない。 手続きを開始してから、治療によって病状が改善してしまったら、これはもう大変なことになる。 治療をしても全く病状改善の見込みがない、と初診時に判断できるごく一部の場合は別として、私はいつも「ある程度、治療を行なって反応を見たい」と説明する。 認知症の程度を判断するだけにしたって、せん妄が被って言っていることがシッチャカメッチャカの場合、実際の認知症レベルより悪い結果が出てしまう。 ある程度落ち着いていて、その人がその人なりのベストの状態で、認知症や知的水準の評価をしないといけない。 後見もしくは保佐の手続きが必要だろうと判断したところで、診断書を作成して家庭裁判所に「こういう人がいますよ」と申立するのだが、ここからも時間がかかる。 家庭裁判所は、その人が実際に持っている預貯金や不動産、血縁には誰と誰がいて、それぞれがどのような状況で、後見人や保佐人の候補者として出された人物が本当に適切かどうかをみっちり調べるのである。 その上で、本人が例えば無言無動でとか、ほとんど会話らしい会話が成立しないほど知的水準が低く明らかに後見に相当するのでない場合、つまり適当に会話は成立するけれど、現実検討はちょっと(意味なく高額な壺を買ってしまうとか、土地をだまし取られてもそれに気付かないほどだとか)という場合、これは多くは保佐に相当するが、ここでやっと鑑定という手続きが開始されるのだ。 この鑑定は主治医が引き受けることが多く、標準で30日程度を要することになっており、その間に5~6回は診察して、決められた書式で鑑定書を作って審判の結果を待つ。 これだけの手続きが必要なので、たいてい1通目の診断書作成からでも、早くて数ヶ月、長くて半年程度は時間がかかると思ってもらいたい。 ところが、中にはびっくりしちゃうような患者さんがいるのである。 割と有名な通販会社の言葉に乗せられて京都旅行をした末に、300万円の羽毛布団を契約してしまったという女性がやってきた。 きちんとクーリングオフや返品の手続きをすればよかったのかもしれないが、送られてきた商品を「こんなもの要らないわ」と契約解除の内容証明もつけず、ただただ、送り返してしまった。 ところが、毎月口座から数十万円ずつ、月賦で落ちて行ってしまうのだと言う。 困った彼女が、弁護士だか司法書士に相談したら、「精神科へ行って、あなたには後見が必要という診断書を書いてもらえば助かる」と言われたので、ひとりで受診したのだ。 さて、応対した私も困ってしまった。 ひとりで来たおばあちゃんに、「私はボケていると診断書を書いてくれ」と言われても...。 前述したような手続きが必要なことをとにかく一通り説明したが、これはこの女性に後見が必要だとしたら、理解してもらえるはずがないということだ。 どうしてもということであれば、日常生活の中で認知の低下を診るために、入院していただきたいが、あなた一人でなくて、お身内と来てくださいと必死にお願いした。 認知症のおばあちゃんをだまくらかして入院させてお金をとったと言われては困るわけだし、本人は後見が必要なほどの人なわけ(?)だから、入院費を自分で支払う能力がないということになってしまう。 あとから入院なんて説明を聞いたことがないと言われても困るし、とにかく「認知症の(ということになっている)」あなた一人では入院も治療も診断書作成もできないのよ。 そうしたらおばあちゃんは泣き出してしまった。 「じゃあ、私はどうしたらいいんですか?私は年金だけで生活していて、300万円なんて払えません。首をくくれと言うんですか。」 確かにそう言っていきなり病院へ来ちゃうところに認知の低下を感じないわけでもないのだが。 そういうのは消費者相談センターへお願いします....。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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