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カテゴリ:プシコ(精神疾患)な毎日
今日のタイトルは、ある先生からのリクエスト。
こういう世界があることを、ぜひ書いて、とおっしゃったので、お応えすることにした。 入院患者さんの間の歴然とした「貧富の差」。 これは非常に切実な問題で、これによって精神症状が不安定になったり、起こす行動によっては患者さんの処遇が変更になってしまうほどの、大きな壁なのである。 今回の場合、医療費支払いで各ご家庭が裕福かどうかという点を言っているのではない。 入院患者さんのお小遣いの間にある、「貧富の差」の話。 長期入院患者さんにとって、お小遣いの金額は死活問題だ。 閉鎖病棟では一日の小遣いを一律に決めているケースもあるが、特に開放病棟では...。 小遣いの金額、それにタバコ代を含むのか、タバコは別に差し入れなのか、電話代を含むのか、別にテレカでもらっているのか...。 そういったものは当然家族の心づもりひとつなのだが、看護師が手渡すので、病院から支給されていると思っている患者さん、結構いる。 1日の小遣いが110円(自販機1回分)、タバコは1日5本の患者さんが診察のたびに私に言う。 「先生、小遣いを1日300円にしてください。せめてタバコを1日10本にしてください。」 患者さんって言うのは、主治医の指示は絶対だと思っているわけ。 だから、私が指示すれば、小遣いの金額が上がるとか、煙草の本数が増やしてもらえるとか、本気で思っている。 医師が唯一小遣いの金額を決められるのは、家族からの預かり金はたんまりあるが、精神症状や糖尿病などで渡す小遣いを制限しているケース。 とにかくもともとの銭がなければ始まらないのだ。 「お小遣いとか、タバコとかは、ご家族がどれだけ入れてくれるか、で決まるのよ。私が自分の権限であなたに出してあげられるのは、薬だけなんだってば。タバコは、10本ずつ吸ったら、次に送られてくるまでの2週間は無しで我慢よ。我慢できないでしょう?」 何回同じ説明をしただろう。 しかし彼はなおも食い下がる。 「●●さんは1日1箱タバコをもらっている。小遣いだって2000円だ。タバコは今日送られてきたはずで、無いはずがない。先生が指示すればそうなるはずだ。家族がというなら、先生が家族に電話してください。俺が自分で電話すると、家族は電話に出ない。先生がかければ、出るはずだ。」 「ご家族はあなたからの電話だから出ないわけじゃないって。ナンバーディスプレイだったとしても、表示されるのは病院の電話番号なんだから、私がかけても同じ。」 自分で言ってて、無駄な説明と分かっている。 この患者さんの場合、一度は家族にお願いして、看護師が2日で300円渡したことがある。 ところが数日後に衣類を届けに来た家族が、「そんなことを許可した覚えはない」と激怒したのだった。 タバコをなんとか増やしてもらうことも「とんでもない。あいつにこれ以上渡すものはない」と一蹴された。 そんなこと、彼に伝えるのもあんまりだが、仕方ないのでやんわりと伝えた。 それでもなお「先生が決めればそうなるはずだ。先生の口一つだ。自分だけ、小遣いが少なくて病院からいじめられている」と彼は信じている。 週に500円の患者さんなら彼よりもらっている金額が少ないのだが、彼はその受け取っている瞬間を見るだけなので「自分が一番少なく貰っている」のである。 1週間の小遣いが500円の別の患者さんは、診察のたびに「小遣いを、お札でください」と言う。 1度に1000円渡したら、2週間に1回になります、という説明をいくらしても、「そんなことないよー。毎週1000円出てくるよ」と譲らない。 楽しみと言えばやはりタバコくらいだが、先日も家族から「タバコの消費が早すぎる。もっと吸わせないようにしろ」と看護師がクレームを受けた。 C券の500円札、岩倉具視くん、少しとっとけばよかった。 板垣退助の100円札でもいいのか(笑)。 どうせ使うのは病院の売店なんだから、数枚あれば、後から500円玉と両替して、彼専用の院内日銀券みたいに流通させれば....。 やはり小遣い週500円の別の患者さんは、自分より多少お金を持っている同室者にイ●ンで広告の品のインスタントコーヒーを買ってくるよう頼んでしまった。 しかも、その買い物の帰り道、頼まれた患者さんが日射病で倒れ、救急車で戻り大騒ぎになった。 インスタントコーヒーの方が毎日缶コーヒーを買うより安いし、たくさん飲めるから、と彼なりに知恵を絞ったようであるが、代金398円を返すことができず、トラブルになった。 だいたいこういうのは、頼まれた患者さんも若干の見返りを期待して引き受けているのである。 一番いいのは家族に買い取って持ち帰ってもらうことだが、家族は「そんなこと知るか。病院の管理の問題だろう」と言う。 どうにか預かり金から出す、などということをしたら、次から味をしめてますます他の患者さんに買い物を頼むようになってしまう。 結局翌週の小遣い500円から差し引いてコーヒー代を支払ったのだが、今度は金がないので他の患者さんにタバコをせびって、問題になった。 一部の「裕福な」患者さんはタバコの1本くらい「おう、やるよ」と言ったふうで、何とも思わないのだが、そうでない患者さんは「あいつが盗った」「借りておいて返さない(足りなくて借りたタバコを返すあてなどあるはずがない)」と大騒ぎになってしまう。 自分の貯金がかなりあって、自由に使える患者さんでも、院内での小遣いは週2000円で我慢してもらっている。 病院だって資本主義社会、本来は自由にすべきだが、週2000円でも、周囲の患者さんにはかなりの目の毒、実際やっかまれている。 誰が沢山お金とお菓子やタバコを持っているのか、患者さんは本当によく知っている。 患者さんの社会性を考えたら、閉鎖病棟より開放病棟で、自由に買い物ができたほうが、いいに決まっている。 でも診察のたびに、小遣いを110円からせめて200円にしてくれとか、タバコを5本から10本にしてくれとか、そんなことで何十分ももめていると、「今日のところは私が100円(またはタバコ1本)あげるからこれで1週間看護師にも不満を言わず黙っといて」と言いたい気持ちになる。 言わないけどね.....。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年07月18日 21時02分45秒
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