寝ている患者さんの起こし方
よそから紹介されてきた救急車で搬送されてきた患者さんが、大量服薬後でまだ半分起きてこない場合に私が使う、奥の手がある。大量服薬を繰り返す患者さんで、圧倒的に多いのが、ベンゾジアゼピン系の安定剤もしくは睡眠剤を使用したもの。そういった薬で眠っているのなら、入院の同意をとるくらいの時間だけ、起こす方法がある。フルマゼニル、という半減期が40分くらいの薬剤を用いる。よく、大腸内視鏡検査なんかをやる時、患者さんに楽に検査を受けてもらうために安定剤を注射することがある(少しボーっとする)。検査後に、安定剤の効果を切るために注射する薬だ。麻酔後のリカバリーにも使ったりするが、半減期が短いためにフルマゼニルの効果が切れると、再び眠ってしまったり、呼吸抑制が起こったりすることもあるので、観察は必要。だが、身体科救急から「身体的には問題ありません」と送られてきた方は、既に自発呼吸がしっかりしているから、あまり呼吸抑制の再発は心配しなくてよい。私は大量服薬で眠っている患者さんのコンタクトレンズが外せなくて、フルマゼニルで起こして自分で外してもらったことと(ものすごーい、充血していたので...)、起きている間に入院の同意を取らせていただいたことがある。もう一度眠って、起きたときに、「私は帰る」と言い出せば帰ってもらえばよいし、その時点で治療を続けたい、と言うのなら、約束事を確認しなおせばよい。とにかく、家族の同意による入院をさせてしまうと、帰す理由がなくなってしまう。それこそ、「自殺企図がなくなるまで入院させる」ということになってしまうからだ。但し、このフルマゼニル、ベンゾジアゼピン系の薬剤以外には無効だし、むしろ他の薬剤の大量服薬の場合は危険なことがあるので、注意が必要。これまで処方されていた薬や、捨てられていたPTP包装、残薬をよく確認してから投与しなくてはならない。圧倒的にベンゾジアゼピン系の薬を使う人が多いのには、理由がある。まず、内科医も含めて処方量が多いこと。それと、変な言い方だけれど、「後腐れ?が少なく、大量にのみやすい」こと。私の患者さんで、過去に大量服薬を繰り返すことで紹介された女性があるが、ベンゾジアゼピン系の薬は、出さないようにしている。主に、抗精神病薬と、あまり沢山のみたくならない抗うつ薬で、コントロール。その彼女が、一度、寝る前に出していた抗精神病薬で、(それまでと同じような感じで)大量服薬をやった。半減期が長いので、薬剤性パーキンソニズム(手が震えたり、小刻み歩行になる)とアカシジア(下肢がジリジリして、座っていられない)で、1週間も苦しんだ。もちろん、薬が抜けるまで、要求されても「眠れる薬」などは出さず、副作用止めを少し出して、「抜けてしまうまで、ガマンするしかないね」と説明した。それきり、彼女は二度と大量服薬をしなくなった。多分、相当懲りたのだと思う。他にも、余分に服用して不足した薬の追加処方はしない(他の医師の外来でも出さないように、とはっきりカルテ表紙に書く)、どうしても追加処方しなければならない薬なら自費で払ってもらう、など様々な約束事を工夫している。ところが、時々うちで出してもらえないと、よその病院に行くケースがある。「お宅で出してもらえないと言っていらっしゃいました。次の外来まで出しておきますので」と恩着せがましいご連絡が入ることがあるが、勝手にそういうことをするのなら、後の治療に責任を持ってもらいたい、と思う。