本書は、セカンドライフの魅力を伝える、という意図のもと作られたセカンドライフ分析本といえる。
SLをはじめよう、というようなhow to的なガイドブックとは異なり、SL内での個人・企業の分類や、リンデンラボ社CEOのフィリップ・ローズデールの生い立ちから設立、同社の経緯、企業理念などが記載されている。
また技術面での解説も、仮想世界サービスを俯瞰しつつ、少ないながらも全体像を把握するには十分に説明されている。
全体的には企業の仮想世界の利用についての記載が多いようであるが、なかなか読み応えのある一冊。
仮想世界サービスの業界は、今現在非常に活発であり、先月発売された本だが2007年1月~4月ごろの話題が非常に多く取り上げられている。おそらく半年後に読んだらすでに陳腐化している内容もあるであろう。
興味深かったのは、リンデンラボ社のオープンソースへの取り組みの章。
本書では、商用インターネット黎明期のwebとの対比でもって、仮想世界サービスの現状と今後を述べている。その内容に諸手を挙げて賛同はしかねるが、大枠ではぼくが考えていた方向と合っていたのが嬉しかった。
以下は本の紹介ではなく、ぼくの考えと妄想である。
今の仮想世界サービスは、パソコン通信に例えられると思う。
各ホストコンピュータを提供するパソコン通信事業者は、独自設備でのサービス拡充を行いユーザの囲い込みを熱心に行っていた。NiftyServe、PC-VAN、Compuserve等々。
これらの事業者はそれぞれで隔絶されており事業者をまたいでの交流は例外的なサービスを除いてほとんどなかった。それがインターネットの登場により崩壊していく。
仮想世界サービスは、ハイパーテキストによるwebの発明に次ぐ、新たな表現手法の普及(発明ではない)といえる。この新たなユーザインターフェースが一般に広く普及されることは、リンデンラボ社一社が自力でできることではない。
実際、エントロピア・ユニバースやガイア・オンラインといったSLとは異なる仮想世界サービスが人気上昇中だし、プレイステーション用仮想世界HOMEの稼動開始も間近だ。
これらの各仮想世界は、独自の機能や付加価値をつけた世界を構築している。
今の各仮想世界サービスには、世界の特色がある。その特色を生かすためには、各世界の専用クライアントを用いて、専用アバターを着てログインしなければならない。
しかしながら、世界の間で交流(交易)はない。
近い将来、仮想世界を実現するソフトウェアのオープン化と標準化が進むに連れ、仮想世界間の相互交流がされていくと考える。仮想通貨同士も為替レートが本格的にできていくだろう。実際、原型はできている。
だが、相互交流ができたとして、世界を変えるたびにクライアントソフトを立ち上げなおすのは人間に優しくない。ユーザ認証も含めて、各仮想世界間でアバターの出入りを自由自在にできるようしていくべきだ。
セカンドライフのアバターがガイア・オンラインへの門(gateway)をくぐると、アバターが着替えてガイアの世界に立つのである。また、マイフレンド登録した友達が、現在どの仮想世界にいるかがわかったりもする。
クライアントソフトはより汎用化し、現在のブラウザにのように統一化されていく。
SLではクライアントソフトのオープンソース化を2007年1月に行った。サーバとクライアントソフト間のプロトコルが公開されたといってよい。
しかしサーバプログラムはオープンソース化されていない。グリッド技術を含めたサーバ仕様は未公開なのである。おそらく未成熟でもあるからであろう。とはいえ、リンデンラボのソフトウェアを使って、利用者が独自にサーバを構築することは可能になっているらしい。いずれオープン化していく方向のようだが。
仮想世界がつながっていくには、サーバ間プロトコルや土地の記述言語、オブジェクトのデータ構造などが進化を重ねていく必要がある。LSLなどはデファクトスタンダードになっていくかもしれない。
そしてより汎用化するために、仮想世界を記述する言語ができるかもしれない。仮想世界内のユーザが使うオブジェクト定義言語を定義するメタ言語だ。
リンデンラボ社は、そうした進化を目指していると期待する。
思いつきだが、過渡期の現在、仮想世界プロトコル変換ゲートウェイサービス(仮想世界エクスチェンジ)ってのは、作れないだろうか。
ある程度プロトコルが標準化してくれば、セカンドライフに入っていたユーザが、ゲートウェイを通じてガイアオンラインにもログインができる。ゲートウェイがセカンドライフビュアーとガイアオンラインサーバのプロトコルを最小公約数をとって変換をするのだ。ビューアはブラウザで十分。
隙間産業的だが、ある期間はビジネスとして成り立たない・・・かな。
オープンソースの世界では、OpenMetaverseという、仮想世界構築システムが開発されつつある。
基本的には、以下の3つのソフトウェアがあるようだ。
・3D空間を作り出すOpenSIM
・抽象空間に、土地や人をオブジェクトを作り出すOpenSL(理解怪しい・・・)
・一つの世界を複数サーバを使ってシミュレートするOpenGrid
TCP/IPでのネットワーク間接続が実現して、パソコン通信文化が崩壊したように、
HTMLやHTTPが開発されて、インターネットが一般に普及したように、
仮想世界技術が自由競争に入っていくことで、攻殻機動隊やマトリックスのような人類進化の第一歩となる歴史的転換点に立ち会えたことがとっても楽しい。
cocololo islandの結婚式チャペルにて