これはおもしろい! プロジェクトXが好きな人には特にお薦めです。
天文学の研究において、複雑な重力計算は、当時のスーパーコンピュータを使っても不可能だった。
そこで1989年、東京大学のある研究室で、重力計算専門のコンピュータを開発された。その名も「GRAPE-1」。
当時日米での開発合戦が過熱していたスーパーコンピュータ並みのMIPSをたたき出したそのコンピュータは、材料費がたった20万円で作られた。これは、GRAPE-1の開発を行った4人の男たちの情熱と苦難の物語である。(それらしく書いてみた)
三人称ノンフィクションの形態をとっているが、著者自身がプロジェクトメンバーの最年少だったハードウェア開発者当人である。
だからこそ、おもしろい。
NHKがヘンな脚色をした、プロジェクトXよりも、当事者であるが故の説得力がある。
4人の男たちの紹介からはじまり、大学や研究室の内情が淡々と綴られる。普段、知りえない大学研究現場の実情もとても魅力的だ。
作者である伊藤の経歴を、上記の楽天ブックスのリンクで見てほしい。東京大学xxx学部卒業、xxx大学教授、xxx学会xx賞受賞、という絢爛な称号の最後、「集英社ヤングジャンプ「青年漫画大賞原作部門」準入選」という、異彩を放つ称号がついている。
何の原作者であるかは、本書を読んでほしいが、誰もが知っている(であろう)作品の原作者であり、なるほど、と納得できる。
こうした背景もある作者であるから、文章もうまい。
リーダだった教授の言葉の中で、以下が印象的だ。
研究は、二種類ある。
0から1を創り出す研究と、1を10にする研究だ。
大多数の研究は、既存の理論を拡張していく。今までにない、まったく新しいものを創り出すことができるのは、ほんとうに稀だ。
我々SEもそうである。
普段でも検証を行いながら、本番への適用や提案をおこなっていく。前例がないから、検証という名の研究を行うのである。
たいていは、1を10にする研究だ。
部署や会社内で、まったく前例のない、新しい事態にチャレンジすることも、数は少ないがある。こういうとき、0から1を創り出す興奮を味わうことができる。
私は、商用インターネットの黎明期に味わった。著者も、GRAPE-1を作った時の高揚感は、その後の研究生活で味わえていないと書いている。
1度でもそうした0から1を創り出す経験をすることは、ものの考え方・捉え方が作る側の視点に向きやすくなる。ゆえに、ものの仕組みや本質を捉える訓練につながっていくのではないかと思う。
前例がないから、という理由でチャレンジをあきらめない。
SEであれば、常にそうありたいと思わせてくれる本である。