『時砂の王』小川一水/早川文庫(2007)
いま、ぼくが最も注目する日本人SF作家「小川一水」の新刊が出ていた。
『時砂の王』
帯にもあるが、この作家はじめての時間SFである。
邪馬台国 卑弥呼の時代をメインストーリーとして、謎の宇宙怪獣(by『トップをねらえ』)と、未来の人口知性体の戦いを描く。
時間概念は、オーソドックスな多重世界を採用しており、過去に干渉することで時間枝が分岐し、無限に近い平行世界が作られていく。
目的も生態も謎な宇宙怪獣が、人類文明のちょっとだけ進んだ技術をもってやってきて、人類が総力をあげて戦うというシチュエーションは、古典SFから前出の『トップをねらえ』、『エヴァンゲリオン』、そして『戦闘妖精雪風』など枚挙にいとまがない。
この作品の魅力は、あらゆる時間軸上に宇宙怪獣が登場し、さまざまな時代での総力戦を行うというスケール感だ。
紀元前10万年前の人類発祥時期から、26世紀あたりが語られる。おそらく前例がない(と思う)。
ある特定の時代において人類が殲滅された場合の人間の犠牲は、60億から100億であろう。しかし時間軸上の、さまざまな時代を攻撃することで、その犠牲者数は、数桁上がる。
さらに、ある時代で人類が殲滅してしまうと、その時代以降に発生したであろう時間枝群が、すべて消え去ってしまうことになる。そう考えると、防衛側の人類に否が応でも力が入る。
きっと、この作品は、ハリウッド映画で実写化すると、非常にスケールの大きなエンタテーメント作品になりそうな気がする。基本的には、わかりやすい勧善懲悪だし。
ちなみに、上記にあげた作品に共通する点として謎の宇宙怪獣は、最後まで謎のままで終わる。(雪風は終わってないが)さて、この作品では、正体が明かされるのかどうか、それは読んでからのお楽しみである。