『どちらかが彼女を殺した』ふたたび
こういうパズルがあります。--------------------------------------------セールスマンが、ある家をたずねました。玄関でその家の奥さんに、お子さんの人数を聞きました。「娘が三人います」そこで、セールスマンは、娘達の年齢を聞きだそうとします。「娘さんの年齢は、おいくつですか?」「3人の年齢を掛けると36になるわ」これでは、年齢はわかりません。奥さんは、さらにヒントをくれました。「3人の年齢を足すと隣の家の番号になるのよ」大急ぎで隣の住所を確認しにいったセールスマンはさらに尋ねます。「もう少しヒントください」「一番上の子供はピアノを弾きます」セールスマンはぽんと手を打って、やっと年齢にあった商品を紹介しだすことができた。さて、それぞれの娘の年齢はいくつでしょう。--------------------------------------------え、隣の住所が書いてない? 大丈夫、それでもこの問題は解けるのです。ちゃんと、隣の住所もわかります。では、以下は回答編。読む前にしばらく考えてください。54321~~~3人の年齢を掛けると36になるわ~~~第一のヒントから、3つの数を掛けると36になる組み合わせを考えます。~~~3人の年齢を足すと隣の家の番号になるのよ~~~第二のヒントから、それぞれの数を足します。 A欄:掛けて36になる組み合わせ B欄:3つの数字を足したもの A : B 1. 1*1*36 : 38 2. 1*2*18 : 21 3. 1*3*12 : 16 4. 1*4* 9 : 14 5. 1*6* 6 : 13 6. 2*2* 9 : 13 7. 2*3* 6 : 11 8. 3*3* 4 : 10ここからがポイントです。セールスマンは、隣の住所を知っているが、読者はしりません。しかし、セールスマンが住所を知り、その住所が仮に「16」だったとするとどうでしょう。上記7つの組み合わせのうち、3番目の組み合わせであることがわかります。娘達は、上から順に12歳、3歳、1歳なのです。しかし、セールスマンは、この時点で答えがわからなかったという情報がヒントになります。つまり、「隣の家の住所」と同じ数値が複数あったということです。上記7つの組み合わせのうち、5番目と6番目のどちらかが、わからなかったと推論できます。だから、「次のヒントを求めた」のです。~~~もう少しヒントください~~~~~~一番上の子供はピアノを弾きます~~~ピアノを弾くかどうかなど、一見なんの情報もなさそうです。少なくとも年齢に関しては。しかし、「一番上の」という表現が、一番目と二番目の娘の年齢は異なることを示しています。2つ目のヒントで絞りこんだ5. 1*6* 6 : 136. 2*2* 9 : 13を見ると、5番目の場合は、一番目の娘と二番目の娘は共に6歳となり、3つ目のヒントと矛盾します。従って、6番目の組み合わせ、9歳、2歳、2歳が正解となります。二人目は、双子だったんですね。さて、なんでこんなことを思い出したかというと。ミステリにおいて、読者に与えられる情報と、登場人物(探偵役)が得られる情報は、同じであることがルールになっています。(叙述トリックのような特殊な作風を除いて)しかし、6月6日(月)で紹介した『どちらかが彼女を殺した』では、加賀刑事が得ている情報を知らない康正が、上記と同様の推論で、正しい答えをみつけるという推理が行われています。そして、読者も康正の推理をトレースすることで、示されない正しい犯人を考えることを強要されます。このへんの連想から、このパズルを思い出したのでした。