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テーマ:日本的なるもの(437)
カテゴリ:陽明学
一 旧友問う。今の世にかまい(構)といいて、一代奉行をおさえて 先々〔さきざき〕をふせぎて困窮せしむることは、 或いは死罪・流罪につぐ(次ぐ)者なれば、尤もことわり(理)とは思い侍れ共〔ども〕、 君子を諸侯にしては、如何〔いかが〕はからい給うべきや。 云う。此の習い久〔ひさし〕うして深ければ論じがたし。 しかれ共、君子までもなく、ちかき世に、或〔ある〕国主の仁厚寛裕なるありしが、 他家ならば、切腹もさすべき罪あるものにても、 我れ彼〔か〕の者になりかわりて見ば、必ずいいわけあるべし、 されど主君に対していいわけは成りがたきもの也、 又〔また〕死をおしむにも似たれば、黙して切腹すると見えたりとて、 ゆるして扶持〔ふち〕をはなし給えり。 又不届き成る事にて立ち退きたる者をも先々をばふせぎ給わず、 他家に扶持せらるる時、其の主人より仔細なき者かと尋ね来ることあれば、 不届きなりし者にても、重宝なる者なり、目をかけ給うべしと返答ありし也。 あしきことは身におぼえのあることなれば、感涙をながし悦びに思い、 それよりは古主〔こしゅ〕の言葉の相違なき様にとたしなみ、 みなよき奉公人に成りぬれば、其の言もむなしからずと人のかたり侍りし。 人〔ひと〕皆父母妻子あり。一家を助け立つるのみならず、不善人を善人とし給えり。 それ人悪を記すは、其の役人にあらざれば無用の事也。 されど、此〔かく〕の如き善人ばかりは、その姓名を聞きて記しおきたき事也。 九州の郡主〔こおりぬし〕にて十万石ばかりの人とおぼえ侍り。 まことに有りがたき好人也。 罪の軽重を論じて、理屈を以ていわば、誰かものいう人あらん。 善悪賞罰の理にしがたわんよりは、斯〔かく〕の如き大徳こそあらましく侍れ。 天地の間に生まれ出〔い〕でて、数十年のつとめをなし、 一家を養育すべき者を、かまいて世のすたり者となすことは、不便〔ふびん〕の事ならずや。 なお孟子につまびらかなり。 士に本〔もと〕より高下なし。上下は一旦の命〔めい〕なり。 唐〔もろこし〕・日本とも同じ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2022年05月20日 21時48分39秒
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