カテゴリ:~第3章~矢部教授、その恋
私が入院したと聞くと翌日、学生達は大いに喜び、祝杯をあげた学生もいたそうな・・・・・・。
「退院したら、全員、不可にしてやる」 その脅しが彼らの耳に人伝に届いたのか、さらにその翌日、沢山の花が届いた。 どの花も鉢、鉢、鉢・・・・・・。 壮観なまでの鉢植えの花が届けられた。 私に寝付け(根付け)と言わんばかりのあからさまな学生の態度に、退院後の私は復讐を誓った。 「太一さん、学生さんにこんなに慕われて良かったですわねぇ」 何も知らず芳子さんは無邪気に笑う。 私はふぅーっとため息を吐くと、ぼんやりと、天井を見上げながら、2年前に亡くなった浩介のことを思い出していた。 「太一、芳子と良介を頼むな」 ヤツはそういい残して51年の最期を鮮やかに走り抜けた。 亡くなる最期まで芳子さんと、息子良介君のことを気遣い、そして必ずこの病気に克つんだと意欲に燃えていた。 それ故、ヤツが、私に芳子さんのことを託したのは亡くなる1時間前のことだった。 私は無二の親友を失い、それから2年後最愛の妻芳子さんを得た。 ヤツは日々どんな思いでこの白い天井を見つめていたのだろうか・・・・・・。 私が天井を見つめながらぼんやりとしていると、芳子さんが不意にうふふっと笑った。 「どうしたんですか?」 「ちょっとね。浩介さんと付き合うことになったときのことを思い出しましたの」 「ほぉ・・・。それは是非聞きたいですね」 芳子さんは鉢植えの花に水を遣りながら、にこりと笑った。 「実はね。私、昔、太一さんのこと好きだったんです」 「はちゃ!!!」 私は驚きのあまりぎっくり腰も忘れて起き上がろうとしてしまった。 「だ、大丈夫?!」 私は駆け寄る芳子さんの手を握り、 「そ、それ、初耳ですが!」 と、年甲斐もなく大声を上げて叫んだ。 「えっ、ええ。もう、30年位前の話ですけどね。 太一さんが、留学すると聞いて、実は私、空港まで駆けつけましたの。 でも、間に合わなくて・・・。 ショックで3日は寝付きましたわ。 そうしたら、浩介さん、『僕があなたを支えます』って鉢植えの花を持ってお見舞いにきて下さったの・・・。 悩んでそれから更に3日間寝込んでしまいましたわ。」 おにょれ、浩介のやつ。 そんなこと一言も言わなかったぞ! あいつ、墓場まで持っていきやがったって訳だ。 昔、昔のことですけどね・・・と笑う少女時代の面影を宿す芳子さんを見ながら、私も昔のことを思い出していた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.12.03 16:27:08
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