カテゴリ:~第3章~矢部教授、その恋
入院したお蔭で私はパワーアップしたようだ。
退院して家に帰るなり芳子さんに手伝って貰って、知り合いの花を栽培している農家をせっせと回った。 「太一さん。こんなに沢山の球根を集めてどうしますの?」 「ふふ。学生に上げるんですよ」 「まぁ、それはそれは・・・・・・」 芳子さんは感動したようだ。 退院し、自宅療養を経てから私は大学に復帰した。 学生達はざわめき、私の助手が担いできたゴミ袋のようなものに視線が集まった。 「あー、君達。私の入院中のお見舞い有り難う。 これは私からのお返しだ」 私は学生が各々1個ずつ番号と名前の入った球根を手にするのを確認すると、マイクを握り締めた。 「諸君!後期テストだが、今回はなしとする!」 学生は喜び、大きな拍手と歓声に教室が揺れた(なぜか教科書も飛んだ)。 「代わりに!レポートを出しなさい」 急に教室は水を打ったように静まり返った。 私は、コホンと一息吐き、彼らをねめつけた。 「この球根を育てて、花を咲かせよ!そして、それまでの間のレポートを作成せよ。 つぶさに花の成長を記録するのだ。 この花は全て君達の手を必要としている。 患者も同じだ。 いいか、諸君。この花を患者だと思い、慈しみ枯らさないよう大切に育て上げなさい。 それが、君達の今回の課題じゃ!では、メリークリスマ~ス!!」 それだけ言うと、私は踵を返して教室を後にした。 教室からは一斉に怒号が飛び交った。 「良かったんですの?太一さん」 心配して見に来てくれた芳子さんが不安そうな顔を覗かせた。 「これで学生さんの恨みを買って太一さんに何かあったらと思うと、私・・・・・・」 「大丈夫ですよ。それに決めたんですよ。死ぬまで、いや、死んでも『僕があなたを支えます』とね。だから、安心して下さい」 芳子さんは嬉しそうに微笑んだ。 私は漸く、浩介に勝らなければという呪縛から放たれたような気がした。 そして、私は芳子さんをそっと引き寄せると初めて安らいだ気持ちで彼女に接吻をした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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