カテゴリ:~第3章~矢部教授、その恋
私と浩介は生まれつき仲が悪かった。
1時間と時間を違わず同じ産院で生まれた私達は、隣同士に寝かせられ、そこでも既にお互いに足を蹴りあっていたと言うからその仲の悪さは筋金入りだ。 高等学校に進んでからも、「目が合った!」と、インネンをつけては喧嘩し、「影を踏んだ」といちゃもんをつけては喧嘩ばかりしていた。 だけど、二人とも県下で一、二位を争う秀才振りだったものだから、大概のことは先生や親からも大目に見てもらえたものだった。 頭は良いが、喧嘩三昧の女っ気なし-----。 それが私達二人に唯一共通した部分でもあったのだ。 そんな私にある日、マドンナが舞い降りた。 学校の帰り道の通り沿いに咲く、白く美しき花に 「この花は何と言う名なのだろう」とふと足を止めた。 私は柄にも無く、その日習った島崎藤村の詩を口ずさんでいた。 まだ上げ初めし 前髪の りんごの元に 見えし時・・・・・・ その時、芳子さん、あなたが諳んじる私の声に合わせて、木の梢の隙間から私の前に現れた・・・・・・。 私は心臓が爆発しそうな位、驚いたものだった。 前に刺したる 花櫛の 花ある君と 思いけり 私はこの2文を最後まで読むことが出来ず、ただ芳子さんの美しい女学生姿にぽか~んと見惚れてしまった。 「この花は白木蓮ですわ」 芳子さん、あなたはくすくすと笑うと、 「お口のここに海苔がついておりますわ」 と、林檎ではなく真白なハンカチを差し出しましたね。 私はその時正に、フォーリンラヴと言うものを知ったのだ。 芳子さん。 白木蓮の妖精かと見まごうばかりの美しきあなたに、恋の矢で心臓を射抜かれてしまったのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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