カテゴリ:第2章 泡沫の夢のように
彼女と私の目が合った。 と、思ったけれど、彼女は直ぐに「準備は出来ているわ」と言いながら、先生を抱きかかえているリンと一緒に奥へと入って行った。 扉が閉まるほんの一瞬、奥に医者らしき白髪の男性が腕を捲り上げている姿が見えた。 「どうか、神様」 テーブルの上で腕を組み、目を瞑ると扉が開き、リンが出てきた。 「大丈夫だよ。あのヤブはもっと酷い状態だったジョージを助けたんだからな」 「彼が?」 「医師免許はないが、腕はどこの医者よりも確かだ」 「免許がないって、お医者様じゃないの?」 「正確には、医者だった、かな。剥奪されたんだ20年程前にな」 「どうして……」 「まぁ、ともかくヤツに任せておけば大丈夫さ。命に別条はないそうだからな」 最後のリンの言葉にようやくほっと胸を撫で下ろした。 リンはリビングを横切り、冷蔵庫を開けるとコップに水を汲み、私の方へと差し出した。 「有り難う……」 1口2口と水で口を潤すと、射るような目で私を見ているリンの存在に気付き、息を飲んだ。 「さて、と。まずはこれを見て頂きたい、ミセス・マッカーシー」 リンは掌から紐の通された穴の開いたコインを取り出すと、時計の振り子のようにユラユラと左右に揺らし始めた。 私はそれを見まいと目を背けようとするのに、まるで強い力に引かれるようにコインの動きをおった。 「そう……いい子だ」 自分の体が風に揺らめく木の葉のように揺れて行く…… リンが何かを言っている…… 暗闇の中で、ジョージが何かを叫んでいる…… 何? 何と言っているの? 「アリシア!逃げるんだ!」 次の瞬間、光の洪水が押し寄せ、物凄い勢いで、記憶の成層を上へ上へと昇って行った。 「ジョージ!」 私は目を見開き、立ち上がった。 「思い出したかな?ミセス・マッカーシー」 「あな……た…は、リン……。リン・イーレイ」 「時は、満ちたようだな」 リンはコインをテーブルの上に置くと、薄っすらと微笑みを浮かべた。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります 「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[第2章 泡沫の夢のように] カテゴリの最新記事
|
|