カテゴリ:第2章 泡沫の夢のように
「そろそろ時間だな」 リンは腕時計に目を落とすと、椅子から立ち上がり、ゆっくりと私の方へと歩いてきた。 『リンは危険だ。陸軍士官学校のプロフェッサーというのはあいつの表向きの顔で』 ジョージの言葉が再び頭の中で、警鐘を鳴らしている…… リンの手が私の方へと伸びた時、咄嗟に目を瞑り、両手を顔の前でクロスさせ身構えた。 一瞬の沈黙の後、背後から多くの人々の歓声と高揚した女性の声が聞こえた。 「大統領夫妻は、今、ダラスの地に舞い降りました!」 何の声かと恐る恐る後方を振り向くと、そこには紙吹雪が舞う中、黒いオープンカーに乗りながら観衆ににこやかに手を振るニコラス・マイヤーズ大統領夫妻の姿がテレビに映し出されていた。 リンはコツコツと足音を立てながら、窓際に寄り掛かり、もう一度腕時計に目を落とした。 「僕達はヴォーンのような派手な爆殺なんて殺り方は全くもって好まない」 リンのピーナッツ・アイが微かに冷笑を浮かべた。 「但し、例外はある」 「え?」 私がリンに目を移すとほぼ同時に、テレビの方からクラッカーを鳴らしたような音が数回聞こえた。 悲鳴が聞こえ、テレビの画面が大きく揺れた。 大統領夫妻を乗せた車が映し出されたが、大統領は大きく後ろへと仰け反り、夫人の体も車のドアにくの字に折れ、2つの影はそのまま動かなかった。 黒づくめの男達が画面の外から集まったかと思うと、大統領を乗せた車を囲い、ピストルを構え、辺りを威嚇した。 アナウンサーの言葉にならない声が、今やマイクを通して絶叫となって私の耳に飛び込んできた。 リンは煙草を胸ポケットから取り出すと、ライターで火を点け、「あっけないもんだな」と呟き、テレビを消した。 「まさか……」 「大統領に敬意を表し」 リンは敬礼の姿勢を取ると、くくっと愉快そうに喉を鳴らした。 「今日はこれから新聞社は号外作りで忙しいぞ。そうだなぁ、さしずめ見出しはこうかな?『ニコラス・マイヤーズ大統領夫妻暗殺』」 「あなたは!」 「さて」 リンは煙草を捩じ消すと、じっと私を見つめた。 『あいつは……』 ジョージの言葉を頭の中で反芻しながら、椅子から立ち上がり後ずさった。 「どうやらすっかりお目覚めされたようだ。ミセス・マッカーシー」 「来ないで!」 ジョージはあの日…… リンと初めて対峙したあの日…… リンから私を隠すように背後に庇いながら小さな声で呟いた。 『あいつの裏の顔は全世界を統べるチャイニーズ・マフィアの首領だ』 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります 「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.06.22 22:47:28
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