カテゴリ:第3章 約束の地へ
リンは台所のシンクに寄り掛かると、腕を組み、僕を威圧的に見つめ笑った。 「君はどれだけのことを知っているのか?」 「……」 「まぁ、いいさ」 リンはふっと笑うと、シンクの横にあった灰皿を引き寄せ、煙草に手を伸ばした。 「ミセス・マッカーシーは、君達とマッカーシー、ヘイワーズ……そしてヒトラー提督との密約を知らんようだな」 リンの言葉に僕は思わず息を飲んだ。 どこまで知っているんだ…… この男は…… 「人類史上最大にして、最悪の悲劇『ホロコースト』が、同時に人類史上始まって以来の壮大な茶番だったことは、聞き及んでいたかな?」 僕の心音は彼に伝わってしまうのではないかと思うほどに、そのリズムが乱れ、喉の奥に突然大きな鉛を飲み込んだような錯覚を覚えた。 「君達とマッカーシー家、そしてヘイワーズ家の歴史は、そう、日露戦争にまで遡る……」 「アリシアが帰ったと言うのなら、僕も帰らせて頂きます!」 「そう言う訳には行かないんだよ、坊や」 その場を立ち去ろうドアノブに手を掛けたが、リンの鋭い眼光が僕をその場に立ち竦ませた。 リンは煙草の火をつけると、ゆっくりと震える息の合間から煙草の煙を吐き出した。 「我々も合衆国も、君やマッカーシーを敵に回すほど愚かではない。だが、君達が約束を守らなければ……どうなるかな?」 「僕には何のことだか……あなたが何を言おうとしているのか、さっぱり分かりません」 リンはもう一度、ゆっくり煙を吐くと、唇を歪ませた。 「君は聞いたはずだ。合衆国に来る前に。君の家で代々伝えられるべき秘密を。行うべき行動を」 「僕がここに来たのは大学で勉強するためです。家のことなんか関係ない」 リンは僕の反論などお構いなしに、煙草を掌で握り潰し、話を続けた。 「ミセス・マッカーシーが、君達の本性を知って正気でいられるかな?」 「脅すつもりか?」 「ふっ。ようやく、話し合いのテーブルに着く気になったようだな」 「彼女に何かあったら……」 「僕を八つ裂きにする、か?」 「当たらずとも遠からずだ」 「面白い。では、そのギリギリのラインでの交渉を我々は楽しむことにしよう」 リンは口の端を上げると、右手を差し出してきた。 僕はその手を無視すると、窓辺まで歩き、扉を開けた。 アリシア、ごめん。 僕は君を守りたかった。 本当にただ、それだけだった。 目を閉じ、息を深く吸い込むと、僕はリンの方に向き直った。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります 「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.07.22 23:38:02
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