図書館で『習近平の敗北』という本を、手にしたのです。
表紙のコピーに「中国の危機」とあるように・・・
かなりの中国ウォッチャーでなないかと思ったのです。
【習近平の敗北】
福島香織著、ワニブックス、2019年刊
<「BOOK」データベース>より
無能でも皇帝になれる共産党体制、すさまじい牢獄国家で暮らすということ、日本は中国とどう向き合うべきか!-政変、動乱、分裂…中国を襲う9の厄災。
<読む前の大使寸評>
表紙のコピーに「中国の危機」とあるように・・・
かなりの中国ウォッチャーでなないかと思ったのです。
rakuten習近平の敗北 |
「第六章 軍靴の足音」で米中の軍事プレゼンスを、見てみましょう。
p216~227
<中国は苦しい時ほど戦争を仕掛ける>
中国がどこかで戦争をするかもしれない。そういう予感はこの数年、ずっと漂っています。
中国は国内が不安定化すると対外戦争を行って国威発揚し、中国共産党の軍権掌握と人民の愛国心やナショナリズム高揚効果を狙う、と同時に軍内の不穏分子を戦場に送り出す、というようなことを実際にやってきました。
記憶に残るのが1979年の中越戦争です。結果的に中国はズタボロに負けるのですが、国内では大勝利を宣伝し、文革によって求心力が落ちた中国共産党の威信を取り戻す効果がありました。またその敗戦の責任を文革中にはびこった扱いづらい軍内左派の軍幹部に負わせて排除し、替わりに自分に忠誠を誓う将校を出世させ、軍権の掌握を勧めました。
実戦を通じて解放軍の弱点を理解した鄧小平はその後、大規模な軍制改革や、軍の近代化を勧めました。
この軍の近代化の成果を試す意味もあり、また1979年の敗北の雪辱を晴らすためにも1884年に再び中越国境紛争を起こします。実際は苦戦を強いられ多大な犠牲を払いましたが、やはりこれも大勝利と国内で宣伝され、鄧小平のカリスマ的地位を確立することになりました。
(中略)
<半島有事>
この原稿を書いているとき、おりしも2回目の米朝首脳会談(2019年2月)がハノイで行われ、何の進展もないまま会議は決裂しました。両首脳は予定よりも2時間も早く会談を切り上げてランチもとらずに早々にホテルに帰ってしまったそうです。
この決裂の原因は、北朝鮮側が「制裁解除を先にせよ」と要求し、米国側は「寧辺以外の全核施設の廃棄や保有するすべての核弾頭の提出などが先で、それが終わってから制裁解除だ」ということで、米朝双方の主張が根本的に対立しているので合意できないのですが、実質進展がないものの、もう少し双方が取り繕って、基本的合意だとか、覚書きのような文書を出すこともできたわけです。そうせずにトランプが席を立って会議を決裂させたのは、同席したボルトン大統領補佐官の振り付けのようです。
半島問題の専門家、重村智計さんから聞いた話ですが、北朝鮮との話し合いは「交渉すると負け」なのだそうです。先に席を立って、北朝鮮側に追いかけさせて、北朝鮮に譲歩させるのが北朝鮮との正しい交渉術。ボルトンはそれを熟知していたので、トランプに交渉しないで帰るようにアドバイスしたのかもしれません。
(ここで6ページほど中略)
北朝鮮には常に軍事クーデターの危険性が潜んでいますが、もし軍事クーデターが起きるとしたら、ほぼ必ず中国解放軍の協力があるでしょう。逆にいえば解放軍がその気になれば北朝鮮でクーデターを起こせます。解放軍、特に旧瀋陽軍区は朝鮮族も多く、軍事物資や資源の密輸入共謀関係があり、心情的にも利益供与的にも絆は深いのです。
習近平政権が命じてそうした北朝鮮有事をたきつけなくとも、解放軍内の不満や不安がそういう形で暴発することはありうるでしょう。旧瀋陽軍区は、汚職で失脚させられた軍長老・徐才厚の部下がまだ多くおり、不満をくすぶらせています。
また習近平サイドが、旧瀋陽軍区内のアンチ派を粛清する口実にするつもりで、軍内で何か問題を起こさせる、ということもあるかもしれません。北朝鮮政府内部がいつ倒れてもおかしくないほど求心力を失ったとき、ロシアも狙っている羅津、清津といった重要港はなんとしても先に抑えたい港ですから、どんな手を使ってもおかしくはないでしょう
そう考えると、半島情勢は、韓国の文在寅が夢見ているような“お花畑”のようなものではなく、いつ引火爆発を起こしてもおかしくないガスが充満しているようなものといえるでしょう。
<南シナ海有事>
南シナ海はどうでしょう。オバマ政権の8年間の間に、中国は南シナ海の領有権問題でフィリピンやベトナムらと争う岩礁島の実効支配を次々と固めていき、軍事拠点化を進めてきました。
具体的にはスビ礁、ファイアリー・クロス礁、クアテロン礁、ミスチーフ礁、ヒューズ礁、ジョンソンサウス礁、ガベン礁の7つの岩礁島を埋め立てて人工島にしているだけでなく、造りあげた島を基地化しています。このうち、スビ、ファイアリー・クロス、ミスチーフの3島には3000メートル級の滑走路ができています。また軍艦が着けられそうな港湾施設、レーダー施設なども設置されているようです。
ファイアリー・クロス、ジョンソンサウス、クアテロン、スビ、ミスチーフには灯台が造られ、中国の交通運輸部が運用しています。気象観測所も造られ、軍人だけでなく民間人(あるいは民兵)も常駐するようになってきています。
ロイターの安全保障専門家の見解をもとにした報道によれば、特にスビ島は解放軍海軍陸戦隊数百人が常駐することを目的に400以上の建物が建てられ、ちょっとした街がけいせいされているといいます。米国の民間衛星写真をみれば、バスケットコートや練兵場が並び、解放軍基地らしきものが確認できます。
1974年のベトナムとの西沙海戦で実効支配を奪ったウッディー島には、2700メートルの滑走路があり、2018年には爆撃機の離着陸テストが行われ、地対空ミサイル発射台が配備されるなど軍事拠点化が進んでいます。
(中略)
2018年6月初め、シンガポールで開催されたシャングリラ会合ことアジア安全保障会議では、ジェームズ・マティス米国防長官(当時)は演説で、中国が南シナ海の人工島で、ミサイル配備や電波妨害施設の設置、新型爆撃の離着陸テストなどを行っていることは周辺国への「脅迫と威圧」であると断言しました。
かつて習近平国家主席が「南シナ海を軍事拠点化する意図はない」と言ったことに反していると批判し、「必要なら断固とした措置をとる」と軍事オプションを臭わせました。
このとき、台湾の台湾の防衛能力強化のために米国が装備面で積極的に協力していくことで、「南シナ海における中国の軍事的脅威に対抗する」とも発言しており、南シナ海有事が台湾有事とも連動する可能性をほのめかしています。
(中略)
中国と岩礁島の領有を争うフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はこうした米中の軍事的緊張が、自国が領有を主張する岩礁島が含まれる海域で急激に高まっていることについて、米中紛争に自国が巻き込まれる懸念を言い出しています。フィリピンは岩礁島を中国に実効支配され、その国際海洋法違反をハーグの仲裁裁判所に提訴して勝訴していますが、中国はこれを公然と無視しています。
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『習近平の敗北』1:習近平政権の変節