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2007.09.30
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カテゴリ:読書
▼…(略)こうした思考を導くものは、たとえ生存は荒廃した時代の支配を受けるとしても、腐朽の過程は同時に結晶の過程であるとする信念、かつては生きていたものも沈み、溶け去っていく海の底深く、あるものは「海神の力によって」自然の力にも犯されることなく新たな形に結晶して生き残るという信念である。こうして生き残ったものは、いつの日か海底に降りて来て生あるものの世界へと運び上げてくれる真珠採りだけを待ち望むのであり、「思想の断片」も「豊かで不思議なもの」も、そしておそらくは不朽の根源現象でさえもその中に数えられるのであろう。   p.317


▼…(略)ゲーテは根源現象(Urpanomenon)の実在性を確信していた。それは現象の世界に発見される具体的な事物であり、そこでは「意味」(最もゲーテ的なことば、意味(Bedeutung)はベンヤミンの著述のなかでも再三繰り返されている)と現象、ことばと事物、観念と経験とが一致するのである。事物が小さければ小さいほど、それは最も集約された形のなかに他のあらゆるものを含むことができるように思われる。

▼…(略)それは極小の真髄が極小の実在に現れていることであり、他のすべてのものはそこから生ずるのであるが、いずれもその意味においてその根源となったものには比較するべくもないのである。言い換えれば、最初からベンヤミンを深くひきつけていたものは、決して観念ではなく、常に現象であった。「正等にも美しいと呼ばれているすべてのものについて、逆説的だと思われることは、それがそのように現れているという事実である」(『著作集』第一巻349ページ)。こうした逆説---あるいはもっと単純にいえば、現象への驚異---が常にあらゆる彼の関心の中心にあったのである。   p.256-257


▼…(略)「ことわざは粗野な思考の学校である」と、かれは同じ箇所で書いている。こうして、ことわざや慣用句におけることばを文字通りの意味にとる手法によって、ベンヤミンは---カフカにおいても同様であり、修辞の形態によってしばしば着想の源をはっきりとみわけることができるのであって、それが人々に「なぞ」を解く鍵を与える---現実への不思議に魅惑的で魔術的な接近を散文で書くことができたのである。   p.263



     『暗い時代の人々』アレント
       阿部斎(ひとし)訳 ちくま学芸文庫
        ヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)の章より抜粋

        読みきれなくて、なかなかこの本から離れられない。




*ベンヤミンは、ドイツの批評家で、マルクス主義的立場に著しく接近しながらも、カフカ、プルースト、ボードレールなどの作家にも傾倒し、独自の評論を残した。ナチスに追われて亡命途上で自殺をとげたが、戦後ドイツの若い世代の間で大きな支持を得ている。アレントとベンヤミンは、パリの亡命時代(1933-40年)に、親しく交際し、ベンヤミンがマルセイユからスペインへの逃亡を計った数日前にも、二人は長い時間話しあったという。
     (訳者後記より p.428)









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Last updated  2007.09.30 22:32:26
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