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カテゴリ:映画
wowowで見た。
○「赤い鯨と白い蛇」2006年 せんぼんよしこ監督が、78歳で初めて映画を撮った。 ずっと長く、テレビドラマの世界で活躍されていた方だと言う。 昔、十代の頃見たテレビドラマを思い出した。 死地に赴く特攻隊員が、使い様のない落下傘を恋人に手渡して、別れを告げる。 戦後、結婚して母となった女性が、一年に一度桜の木の下で、まっ白いドレスを着て無言のまま、たたずむ。 子供はその理由を父から聞く。 彼女は遺品の落下傘で作ったウエディングドレスを、一年に一日だけ身にまとう。 その日は彼女の心の中だけにある記憶と向かい合い、彼女だけの世界に篭もるのだ。 家族の誰もが侵犯できない場所に。 記憶は曖昧だが、このような内容のドラマだった。 昭和30年代、戦争はこのようなドラマの形でも伝えられていた。 この「赤い鯨と白い蛇」はその続編のようにも思えた。 ここでは、海軍の七つボタンの胸元のボタンが、世代をこえて手渡されるのだ。 人を思うこととは、こういうことなのだと、思わされる。 自然に涙が溢れてくるのだった。 香川京子、樹木希林、浅田美代子の演技に見とれる。 宮地真緒、坂野真理を加えて五世代の女性達の生活する姿が、それぞれに映し出される。 男性は登場せず、その存在だけが暗示される。 登場しないことによってかえってその影響の強さを感じさせるという、手法のようだ。 潜水艦を赤い鯨と嘘をつかねばならなかった時代、戦争があったために自分に正直に生きることができなかった時代。自分に正直に生きたために理不尽な血をも流さねばならなかった時代。 白い蛇は家の守り神で、蛇と話した人は仕合せになれるという伝説は嘘でも、 人に何かを気づかせて再生はつながっていく。 古い民家も語っているようにカメラが写す、肌理細やかな映画であった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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